八重山上布とは
八重山上布とは沖縄県八重山郡周辺で古くから作られている、沖縄の歴史と共に進化してきた織物のことです。
糸から丁寧に時間をかけて作られ、赤茶色の植物染料で白地に絣模様を擦り込ませて作るのが大きな特徴です。
現代では上質な麻の着物や帯として親しまれていて、沖縄県伝統工芸品、沖縄県無形文化財、経済産業大臣指定伝統的工芸品、沖縄県推奨優良県産品、石垣市推奨伝統工芸品に指定されています。
波乱万丈な八重山上布の歴史
八重山上布は、1400年頃に李氏朝鮮にて編纂され始めていた【李朝実録】の記述によると、八重山上布の元祖たる苧麻(ちょま)を使った織布が存在しています。当時は王朝お抱えの絵師が作った図案から上質の麻布が作られていて「赤縞上布」と呼ばれていました。
1637年に琉球(現在の沖縄)は鹿児島県西部の薩摩藩に占領されました。
その後、「人頭税」という14歳以上の婦女子に貢布などの厳しい課税によって八重山上布は貢納されました。また、薩摩藩を通じて江戸や大阪にも出荷され、「薩摩白絣」「錆絣」の名で特に日本国内に知られることになりました。
1886年(明治19年)に人頭税が撤廃され、八重山独自の短機と呼ばれる織布が考案された結果、さらなる発展を遂げます。
大正時代には、改良された捺染で使う「綾頭」が短機の1部になります。それにより、張力のむらによる経絣のずれがほとんどなくなり、さらに品質が向上していきました。
しかし、第二次世界大戦で沖縄半島が大打撃を受けたことで一時的に衰退してしまいます。
1989(平成元)年4月、通商産業大臣(現・経済産業大臣)によって国の伝統的工芸品に指定されます。
現在は沖縄県、石垣市における後継者育成事業などによって伝統を受け継いでいく流れがあります。
着物としては、1991年に沖縄県指定の無形文化財技能保持者に認定された実績をもつ新垣幸子氏の作品が人気です。
その他に森伸子氏、糸数江美子氏、高志津子氏、大仲毬子氏らが八重山上布の着物作家として名を馳せていて、彼女たちの作品は特に人気で高値で売買が行われています。
自然を感じられる爽やかな麻の風合いの「八重山上布」ができるまで
八重山上布は、麻から作られた白地に、自然から生まれた発色や自然現象や動植物などを模した図柄が大きな特徴です。
そのため、非常に爽やかな風合いが醸し出されます。
こういった特徴は布の生地や染色に至るまでの1つ1つの工程によって作り上げられています。
まず、八重山上布の土台となる生地は、八重山諸島の苧麻(からむし)から手績みされた苧麻糸を、緯糸に織り込んだ草木染め(八重山の植物)の手織苧麻織物です。苧麻を水につけて刃物で削り、さらに水につけて柔らかくして細くして、人の指先でさらに細く裂いて、繊維を繋ぎ合わせて1本の糸に仕上げます。
1反分の着物を織るために経糸が約50日、緯糸に約40日かかります。
また、刷込捺染技法と呼ばれる紋の形の型紙を用いて、染料で刷り込めて染める捺染の技法で紋を表す技法が特徴です。この技法を用いている沖縄県の織物は八重山上布が唯一です。
染色の後は「海晒し」と呼ばれる色止めや余分な染料を落とし、上布の地色をよりいっそう白くするために4時間ほど海に浸します。その後、1日8時間・約10日間天日で干します。八重山地方の強い日差しのもとで行うので、模様が深い色合いになります。
海晒しや天日干しをしている間に雨が降ってしまうと模様が変わってしまうため、これらの作業は天候に配慮しながら行わなくてはいけません。
最後に海水を洗い流し、蒸した後は布を丸太に巻き付け、その上からさらに木綿の布を巻いて台に置き、杵で打ちます。杵で叩くことで肌触りが良くなり、八重山上布独自の風合いが生まれます。
さらに、白上布に焦げ茶色の絣模様が浮かぶのも八重山上布の大きな特徴です。
ここでいう絣とは、かすれたような部分が等間隔に配置された模様のことです。
この模様に用いられているのは、発色する紅露(クール)というヤマイモ科の植物や、黄色に発色する福木(ふくぎ)、藍色に発色するリュウキュウアイなどを使用しています。
麻の糸を紡ぐところから始まり、1つ1つの作業が大変手間や技術を必要とされます。そうして丹精込めて作られた布だからこそ唯一無二の存在なのです。
着物として親しまれている「八重山上布」
上布は最上級の麻織物として現在は主に夏物の着物として親しまれています。着物の格としては「おしゃれ着」で、麻であるため、冠婚葬祭では着ることはできません。
麻は通気性、吸湿性が良く肌に密着しないので7月から8月に着用する人が多いようですが、帯単体では梅雨明け前の単衣時期から夏を通じて楽しむことができます。
麻の風合いを生かす上では名古屋帯、博多布との相性が良いとされています。
八重山上布の見学・体験ができる場所
石垣市立八重山博物館
所在地 | 沖縄県石垣市字登野城4-1 |
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電話番号 | 0980-82-4712 |
定休日 | 毎週月曜日(月曜日が祝日の場合は翌日まで) 祝日 / 年末年始(12月29日~1月3日) 燻蒸及び展示替の日 |
営業時間 | 9:00〜17:00 |
HP | https://www.city.ishigaki.okinawa.jp/kurashi_gyosei/kanko_bunka_sport/hakubutsukan/ |
備考 | 八重山に関する民俗資料の一環として八重山上布の展示があります。 |
みね屋工房
所在地 | 沖縄県石垣市新川湧川原1129-2 |
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電話番号 | 0980-83-0039 |
定休日 | 年中無休 |
営業時間 | 9:30〜18:30 |
HP | https://www.mineya.com/taiken.html |
備考 | 八重山上布の展示、販売を行っています。 |