土佐打刃物とは
土佐打刃物(とさうちはもの)とは、高知県の中東部で生産されている伝統的な刃物です。
古くから鍛冶が盛んな土佐では林業用の道具を中心に刃物が生産され、のちに武具刀剣の需要増加で刃物の一大生産地となります。
ほかの産地にはない独特な「自由鍛造」によって生産される土佐打刃物は、全国の農林業従事者を中心に愛用されている優れた刃物です。
土佐打刃物の歴史と、野中兼山の藩政改革
土佐打刃物が発展した背景には、南国特有の高温多湿な気候が関係しており、樹木が育ちやすいために古くから林業が盛んでした。
そのため、林業で使用する鉈(なた)や斧などを生産する鍛冶職人が数多く在住していたと考えられています。
鎌倉時代後期には大和(現在の奈良県)から移住したといわれる刀鍛冶・五郎左衛門吉光が土佐に一派を形成。
元々あった鍛冶の地盤も強みとなり、刀剣の生産が盛んに行われました。
吉光派は1500年代末まで活躍して多くの武具刀剣を供給し、土佐一帯を治めていた長曾我部氏の四国統一に貢献します。
この頃に長曾我部氏によって行われた検地によると、土佐には399軒の鍛冶屋が存在していたことが文献に残されています。
その中でも野口孫七郎は当時の土佐鍛冶の代表的存在で、鎌鍛冶として野口派とよばれる一派を形成しました。
江戸時代に入って土佐の藩主が山内氏に替わると、藩の財政が困窮し、土佐の産業を改革する必要に迫られます。
このとき家老の野中兼山が主導して新田開発や森林資源の活用を行ったことで、農業・林業用に多くの刃物が必要になり、鍛冶職人の仕事が急増しました。
やがて藩の財政は安定し、土佐打刃物にとってもこの改革が大きな転機となり、職人の増加・製品の品質向上・販路の拡大などの好影響を受けました。
こうして土佐は鍛冶の一大産地となり、土佐打刃物は全国で高い評価を得ることになります。
明治以降は多少の機械化が行われたものの、現在でも熟練の職人たちが手作業中心で土佐打刃物の伝統を守り続けています。
職人が思いのままに形を作る土佐打刃物の特徴
土佐打刃物は、おもに林業に使用される刃物の生産で長い歴史を持ち、作業者にとって扱いやすい刃物を生産することに特徴があります。
「自由鍛造」と表現される土佐打刃物の製造形式は、刃物の用途に対する工夫はもちろん、使用者の体形や使用する土地にまで合わせたアレンジを行います。
自由鍛造は決められた型がないことによって実現できる製造方法であり、刃の寸法や柄の角度など、一見するとわずかな違いでも、使用者をうならせるに十分な使い勝手の良さが生まれます。
同じ鎌でも、平野部で使用する場合と山間部で使用する場合で形状や長さに違いを持たせたり、作業者の体形にまで合わせたりするなど、扱いやすいように生産するその腕前は見事です。
土佐打刃物の熟練の職人は、簡単な注文書さえあれば思いのままに刃物を生産でき、かつ依頼者の要望に応える絶妙なでき栄えを実現してくれます。
一方で、そのような柔軟な対応は高い熟練度が求められるため、後継者の育成を難しくしている一面もあります。
土佐打刃物の特徴の一つである扱いやすさは、長い伝統に培われた持ちやすさにも表れています。
それは刃の精巧な重量バランスがもたらすもので、刃の背面は重量感を持たせ、刃先を薄く軽くすることによって、刃物を手に取ったときの感覚が明らかに軽くなるのです。
この巧みな工夫によって、土佐打刃物は長時間の使用でも疲れにくいため、多くの愛好者を獲得しています。
土佐打刃物の現代での使われ方とお手入れ方法
土佐打刃物はおもに農林業とともに発展してきたため、現在も農作業や林業で使用する刃物が多く生産されています。
代表的な生産品は鎌ですが、平地の農業で使用する鎌と山間部で使用する鎌には形状に大きな違いがあり、さらに片刃と両刃の区別があります。
鎌の種類は、薄鎌・中厚鎌・厚鎌・造林鎌・登鎌など多種多様で、これほど多くの種類の鎌を抱える生産地はほかにありません。
鎌とともに林業で重宝される刃物が鉈で、刃が肉厚で重量感を与える印象ながらも軽くて扱いやすく、切れ味も抜群で、間伐材の伐採に活躍しています。
その他、日用品も数多く生産されており、包丁や小刀などが特に種類が多く、南国・土佐ならではのかわいい「くじらナイフ」も生産され人気となっています。
土佐打刃物のお手入れ方法は、錆びを防止することが最も重要です。
使用後は中性洗剤で汚れを落としてよくすすぎ、乾いた布で水分をしっかり拭き取り、椿油などを塗って空気に触れないように鞘などで保護します。
特に樹木を伐採したあとの鎌や鉈には、樹液やヤニが付着することがあり、これを放置すると錆びの原因になります。
ヤニは特に落としにくいため、ヤニ専用のクリーナーを使用して除去するのがよいでしょう。
土佐打刃物の工房は研ぎサービスを行っているところも多く、定期的に研ぎを行って切れ味を保つことで長く愛用することができます。
土佐打刃物の見学・体験ができる場所
土佐刃物流通センター
所在地 | 高知県香美市土佐山田町上改田109 |
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電話番号 | 0887-52-0467 |
定休日 | 年末年始 |
営業時間 | 8:30~17:00(土日祝10:00~16:00) |
HP | http://www.tosahamono.or.jp/ |
備考 | 【刃物の販売】 3000点以上の多種多様な刃物を販売しています。 【刃物制作の実演見学】 10名以上の事前予約があれば、会員工場の見学が可能です。 |
迫田刃物
所在地 | 高知県須崎市神田781 |
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電話番号 | 0889-43-1907 |
定休日 | 完全予約制 |
営業時間 | 10:00~16:00(1時間休憩あり) |
HP | https://sakodahamono.com/ |
備考 | 【体験内容】 包丁の製作を体験できます。仕上げた包丁は1本無料で受け取れます。 【料金】1工程3名まで60,000円、1名追加ごとに20,000円(税別) 1工程最大6名まで参加可能です。 |