多摩織とは
多摩織には、織地別に多摩結城(たまゆうき)、紬織(つむぎおり)、風通織(ふうつうおり)、捩り織(もじりおり) 、変わり綴れ(かわりつづれ)の5つの品種があります。産地は八王子市のほか、あきる野市です。1980年に当時の通産省(現経産省)から伝統工芸品として指定を受けました。
ピンチをチャンスに!激動の時代を生き抜いた多摩織の歴史
多摩地方で織られていた絹織物にスポットをあてると、平安時代末期まで遡ることができます。産業として盛んになったのは、北条氏の支配下に入った室町時代からのことです。
江戸時代になると、毎月旧暦の「4日」と「8日」に市が開催され、多摩地方の村々から繭や生糸、織物などが集まるようになりました。この市で商われた織物は、やがて「八王子織物」として知られるようになりました。今でいう「ブランド化」です。そして八王子は「桑都(そうと)」の美称で呼ばれるようになりました。
現代とは違い、江戸時代に絹織物を着ることができたのは身分の高い人々です。一般庶民が着ることができたのは、木綿の着物でした。木綿を紡いだ糸を染めて縞模様に織ったものがほとんどだったのです。
そのため「八王子織物」は男物や実用的な着物の産地として名を上げたのでした。
多摩地方の特産物には、縞模様の木綿地の織物以外に絹織物の原料である繭や製糸もありました。江戸時代末期には地域ごとに分業化が進み、「縞買い」と呼ばれる仲買商が力を持ち始めます。
ところが時代が明治に変わってしばらくの間、「八王子織物」は低迷期が続きました。輸入物の粗悪な化学染料を使ったせいで、市場から締め出される事態に至ったのです。
八王子織物の低迷を挽回すべく奮起した仲買商らは1886年に八王子織物組合を結成。翌年には八王子織物染色講習所を開設し、染色の第一人者である山岡次郎や中村喜一郎を招聘(しょうへい)しました。
そして1899年には製造業者を網羅した八王子織物同業組合が生まれ、近代化が進められました。
大正時代には力織機(りきしょっき)の導入と共に第一次世界大戦後の好景気もあり、八王子の織物業は発展していきます。同時に大正デモクラシーを背景に、庶民のファッションセンスは男性の洋装化、女性は縞から華やかな模様へと大きく変化します。
そこで生まれた新商品が婦人物着尺(一枚の大人用着物を仕立てるためにカットされた布で幅38.0センチ×長さ11メートル)とネクタイでした。八王子織物の現代に続く技術や製品開発の起源は、大正時代にあるのです。
昭和初期になると、家内工業から工場制工業へと産業構造が大きく変わり、工程ごとに細分化していきます。この昭和初期に、八王子織物の代表ブランドともいえる「多摩結城」が完成しました。そして時代の荒波を越え、八王子織物は現代に受け継がれ、新たな発展を遂げたのです。
多摩織、その5つの品種の魅力を探る
多摩織の紬は真綿を紡いだ糸で織られた丈夫で素朴な風合いの織物で、多摩産の製品を指します。真綿は繭を煮沸して綿状に引き伸ばしたもので、軽くて丈夫で保温性に優れ、伸びが良いことに定評があります。
多摩織の風通織は、経糸(たていと)と緯糸(よこいと)にそれぞれ違う色を使った二重織の平織のことで、多摩産の製品になります。
表と裏に同じ模様が違う色で出ることに特徴があります。風通の名は、二重織の内部に風が通ることから名づけられました。
多摩織の捩り織は、緯糸に経糸を絡ませて織る織物のことで、多摩産の製品をいいます。夏用の着物地である絽・紗・羅などは捩り織で織られています。ただし多摩織の捩り織の中心は現在、夏物のシャツとタオルケットになりました。
多摩織の変わり綴れ織りは、多色の緯糸を使って複雑な模様を織り出した織物のことで、多摩産の製品を指します。
桑都の自然と伝統が生んだ、斬新なデザインと現代的な機能
多摩織の魅力を全世界に発信するために作られた「マルベリーシティ」ブランドは、八王子の美称「桑都」からネーミングされました。
そのひとつである多摩織のネクタイは先達から伝えられた技術を受け継ぎ、現在も優れた製品を作り続けています。なかでもP-tieは遊び心あふれる斬新なデザインが人気です。
多摩織のスカーフやストールにも、先染めの伝統技術は活かされています。
1990年代に楊柳という織り方をヒントに考案されたストールは爆発的にヒット。その後はmomaコレクションに選ばれたり、googleからオファーが来るほどの伝統工芸士も現れました。多摩地方原産の桑やランなどの植物で染めたナチュラルな色合いのスカーフやストールは女性の心をつかんで離しません。
男物の袴や着尺から女物の着尺へと販路を広げてきた多摩織は、現在は洋服用の服地やインテリア用の生地も製造しています。
多摩織の着物は、通常の着物のお手入れと同じで大丈夫です。そのほかの製品は、クリーニングタグの指示に従ってお手入れすることをお勧めします。
多摩織の見学・体験ができる場所
八王子織物工業組合べネック
所在地 | 東京都八王子市八幡町11-2 |
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電話番号 | 042-624-8800 |
定休日 | 水曜日、日曜日、祝日 |
営業時間 | 10:00~16:00 |
HP | http://www.hachioji-orimono.jp/index.html |
備考 | 1F直販ショップにて、本物の多摩織に触れることができます。 |
有限会社澤井織物工場
所在地 | 東京都八王子市高月町1181 |
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電話番号 | 042-691-1032 |
定休日 | 日、年末年始 |
営業時間 | 10:00~17:00 |
HP | https://tokyoteshigoto.tokyo/studio/sawaiorimonokoujou/ |
備考 | 【見学】多摩織5種類の布を貼ったしおり付きで1名500円【体験メニュー】コースター1,500円、プレイスマット3,500円 |