駿河雛人形とは
駿河雛人形(するがひなにんぎょう)とは、焼津市などで伝統的な製法によって作られている雛人形を指します。1994年に、長い間に受け継がれてきた技術が認められ、当時の通商産業大臣(現・経済産業大臣)によって、国の伝統的工芸品に指定されました。
2つの天神人形に見る駿河雛人形の歴史
駿河雛人形の起源は、2つの天神人形にあるといわれています。1つが、桐塑(とうそ)という桐の粉を練った粘土を使って作られた「煉天神(ねりてんじん)」という人形です。この人形は、天神とよばれる菅原道真公を模したものとなっています。
この煉天神を作り始めたのは、静岡県焼津市に住んでいた青野嘉作で、土細工師を呼んで土人形として作ったのが始まりとされています。
もう1つが、江戸時代に制作された「衣装着天神(いしょうぎてんじん)」です。こちらは最古のものでは1853年のものが現存しており、江戸時代末期にはすでにこの地方で衣装着天神が作られていたと考えられています。
衣装着天神は静岡県中部地区でしか作られていないものであり、ほかの地区では見られない大きさや豪華さが特徴でした。
また、初期の衣装着天神の衣装はビロードとよばれる朱子地のような布地で作られ、後ろ半分が赤紙で、袴が下までないという特徴がありました。
昔の静岡市中部地区では、雛祭りの季節には男女を問わずこの衣装着天神を送るという風習があり、それは現代でも「男の子の雛人形」として男の子に天神人形を送るという風習として残っています。この煉天神と衣装着天神の2つの人形が、やがて駿河雛人形に形を変えていったのです。
駿河雛人形の胴は、稲藁を使った藁胴(わらどう)というものが用いられていますが、これは、静岡県中部では米が多く生産され、稲藁が入手しやすかったことに由来します。駿河雛人形は、その土地の特色も取り入れつつ、独自の形に進化していった人形なのです。
ふくよかで優しさに満ちた駿河雛人形の特徴
駿河雛人形の特徴は、ほかの人形に比べると胴の部分が太く作られており、胸の部分のカーブに合わせて斜めに削られていることで、ふっくらとした優しげな雰囲気になっていることです。
また、駿河雛人形の製作工程には、両手を曲げる「振り付け」があることも特徴です。この振り付けの工程は、その手の曲げ方によって誰が製作したか分かるというほど職人の個性が発揮される工程となっており、職人の腕の見せ所となっています。
そんな駿河雛人形ですが、その製作にはいくつもの工程が必要となるのです。駿河雛人形作りは、まず胴の部分の製作から。
稲藁をしっかりと巻き、その上に紙を巻いて乾燥させ、1体ごとに大きさに切り分けます。次に、人の形になるように包丁を使って形を整えます。胴の形ができたら、次は腕を作る作業です。
木材を糸状に削った木毛(もくめん)を紙で円錐状に巻いて腕を作り、針金を使って藁胴に取り付けます。腕と同じ方法で膝と足の部分も作り、藁胴に取り付けます。
このようにして体を組み立てたら、今度はその体に衣装を着付ける作業です。駿河雛人形の装束の生地は、西陣織(にしじんおり)や桐生織(きりゅうおり)などの豪華絢爛な生地です。和紙や洋紙で作った型紙に糊づけし、型紙に沿って生地を裁断し、ミシンと手縫いで仕上げて着せ付けます。
本物の人間に着せるように、一つ一つの生地をていねいに着せていきます。装束の着せ付けには、膠(にかわ)と呼よばれる獣の骨や皮を煮詰めて作った天然の接着剤を使用します。
服を着せたら、人形の両手を曲げる振り付けの作業です。腕の中に通っている針金を曲げることでポーズを付けるのですが、一度曲げた針金は元には戻らないため、この作業には最新の注意を払う必要があるのです。
振り付けを行ってポーズを整えた人形に、頭を取り付けていきます。静岡で生産されるのは胴までで、頭は埼玉、東京、京都など、ほか他の人形の産地で作られています。そのため、胴部分だけがほか他の産地に送られるのです。
頭が外れないようしっかりと取り付けたら、最後に冠や笏(しゃく)、檜扇(ひおうぎ)などの小道具を取り付けていきます。
小道具を全て取り付けたら、ようやく駿河雛人形は完成するのです。このように、駿河雛人形を1体作るだけでも、数多くの工程が必要となります。しかし、そこに掛かる手間こそが、駿河雛人形の品質を確かなものにしているのです。
駿河雛人形の現代での使われ方とお手入れ方法
現代の駿河雛人形は、その伝統の形式を守りつつも、室内に置きやすいように小型の人形が作られるようになっているなど、時代に合わせて進化しています。
また、その豪華な衣装生地を生かした雑貨なども作られるようになりました。駿河雛人形の伝統の製法が長く受け継がれるよう、後継者の育成にも力を注いでいます。
そんな駿河雛人形ですが、職人の手によって一つ一つていねいに作られている人形であるため、その取り扱いにはいくつかの注意点があります。
まず、人形は油分や汚れがつきやすいため、手袋などをして、なるべく手で直接触れないようにして飾ってください。駿河雛人形を飾る時は、なるべくホコリが付かないようにアクリルケースやガラスケースの中に入れるのが無難です。
ホコリが付いてしまった場合、羽ばたきなどで優しくホコリを落としてください。汚れや破損などが激しい時は、購入したお店に持ち込むのが一番確実な方法です。
また、雛祭りが終わって収納する時は「風通しがよく湿気が少ない」「直射日光が当たらない」「寒暖差が少ない」という3つの条件を満たす場所に収納する必要があります。
駿河雛人形の見学・体験ができる場所
にんぎょっ子
所在地 | 静岡県静岡市駿河区東新田4-10-21 |
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電話番号 | 054-257-3983 |
定休日 | 土曜日、日曜日(販売期間の11月初旬~2/15は木曜日) |
営業時間 | 10:00~18:00 |
HP | https://ningyocco.com/ |
備考 |
望月人形
所在地 | 静岡県静岡市清水区由比北田112-19 |
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電話番号 | 054-376-0010 |
定休日 | 日曜日(販売時期の12/1~4/25頃は無休) |
営業時間 | 10:00〜17:30 |
HP | http://www.surugahina.com/ |
備考 |