薩摩切子とは
薩摩切子は、鹿児島県で製造されているガラスの工芸品です。江戸時代、ガラスにカットを施した切子の技術は、江戸切子の職人を招き入れたことから薩摩へ伝わります。一方、切子に色を被せることは薩摩から江戸へと伝授されており、それぞれ風合いのちがう切子が、相互関係により高まってできあがりました。その後、薩摩切子の製造は20年ほどで消滅しましたが、残された資料や現物をもとに1985年に復元されました。1997年に鹿児島県の伝統工芸品に指定されています。
島津家の「集成館事業」により発展した薩摩切子の歴史
薩摩は古くから、中国や琉球などアジア太平洋地域との交流が盛んでした。1543年には、中国船で種子島に流れ着いたポルトガル人により鉄砲が伝えられ、自国製の鉄砲の製造を開始しました。1549年にはフランシスコ・ザビエルが上陸し、キリスト教を布教。この頃に薩摩へ西洋文化が入ってきたと伝えられています。
薩摩藩は、桜島のたび重なる噴火により穀類の栽培には向いておらず、財政に苦しんでいました。そこで収入を得るために、以前から交流のあった西洋型の産業国家づくりを目指すことに。1846年、薩摩藩第27代藩主の島津斉興(しまづなりおき)は、薬を輸出するための薬品瓶をつくるために、江戸の加賀屋で職人をしていた四本亀次郎を招へいしました。
1851年には、第28代藩主の島津斉彬(しまづなりあきら)が、きび砂糖などの交易により手にした莫大な資金を投じて、「集成館事業」と呼ばれる官営の工業地帯をつくりました。そこには、製鉄・造船・造砲・紡績・印刷・製薬などさまざまな工場が建てられ、ガラス工場もその内のひとつでした。
亀次郎は薩摩藩より、日本の特産品をつくりあげる命を受け、さまざまな色の薩摩切子を開発。とくに銅粉から暗赤色を、銀粉から明赤色を生み出した「紅色ガラス」は将軍や大名への贈答品となり、国内外で評判となりました。
しかし隆盛を極めたのもつかの間、藩主の急逝や戦争により、工場が消失してしまいます。職を失った薩摩切子の職人たちは江戸へ行き、色の技法を伝授。それまで無色透明だった江戸切子に、色の表現が入りました。
幻となった薩摩切子が復元を目指すことになったのは、1975年のことです。大阪で「薩摩切子復刻プロジェクト」が立ち上がりました。それを受けて鹿児島県でも、島津家に残されていた資料や写真、現物を実測しながらの試行錯誤が始まります。カット技術は江戸切子に学び、色ガラスを被せる技術は独自に開発。1985年には、鹿児島県の協力のもと、島津興業「薩摩ガラス工芸」が設立されて、復元に成功しました。
原料をふんだんにつかったゴージャスな薩摩切子の特徴とは
薩摩切子の特徴は、色の濃いところからだんだんと色彩がうすくなっていく、「ぼかし」と呼ばれるグラデーションの美しさです。この技法は、生地の厚みが2~3ミリあることによりできるつくり方で、重厚感があります。同じ切子でも、うすくてコントラストがはっきりしている江戸切子とは正反対の製品です。文様にもちがいが見られ、江戸切子は単一でシンプルな図案であるのに対して、薩摩切子は複数の文様を組み合わせて、ぜいたくな施しがされています。
薩摩切子の製造工程は、まずガラスの原材料を調合して、1300~1500℃の熱で溶かします。別の窯で溶かした透明ガラスと色ガラスを、それぞれ吹き竿に巻き取る「たね巻き」の作業。職人がタイミングを合わせながら、泡のないきれいな下玉をつくっていきます。
「色被せ(いろきせ)」は、たね巻きをした色ガラスを先に金型へ吹き込み、碗状になるように吹きます。つぎにたね巻きをした透明ガラスを流し込み、外側が色、内側が透明の2層ガラスに。加熱炉に入れてなじませ、型吹きや宙吹きなどの技法で成形します。できあがったら、徐冷窯(じょれいがま)と呼ばれる炉の中に入れて、約16時間かけてゆっくり冷ましていきます。
徐冷窯から取り出した生地はチェックを受けて、カットの工程へ。まずは文様に合わせた分割線を引いて「割り付け」をおこないます。線をもとにダイヤモンドホイールでカットを施すと、外側の色ガラスが削られて模様が浮かび上がります。つぎに砥石をつかってカットの表面をなめらかにし、さらに細かいカットを。効果的なぼかしを生み出すために、線の深さを整えて凹凸をなくします。最後に青桐の木盤、竹繊維のブラシ、バフと呼ばれる布の円盤などで、緻密に磨きをかけていき仕上げます。
薩摩切子の現代とお手入れ方法
今も薩摩切子の復元研究は続いており、ぼかしの表現が難しい黒の切子や、代表作の紅、藍、紫、緑なども再現しています。さらに2色被せにも挑戦したり、新しいデザインにも取り組んだりしています。
薩摩切子は急冷急熱に弱いため、熱湯を注いだり氷を大量に入れたりしないでください。電子レンジ、食洗器、乾燥機の使用もさけましょう。スポンジかやわらかい布に中性洗剤をつけてやさしく洗います。カットの部分は、ときどきやわらかいブラシをつかいましょう。漂白剤に数時間浸けておくと、水あかなどのくもりもきれいになります。収納は重ねずに、紙か布をはさんで保管しましょう。
薩摩切子の見学・体験ができる場所
(株)島津興業 薩摩ガラス工芸
所在地 | 鹿児島県鹿児島市吉野町9688-24 |
---|---|
電話番号 | 099-247-2111 |
定休日 | 年中無休 |
営業時間 | 8:30~17:30 |
HP | http://www.satsumakiriko.co.jp/index.html |
備考 | 工場見学9:00~17:00、月・第3日曜日定休 |
薩摩びーどろ工芸(株)
所在地 | 鹿児島県薩摩郡さつま町永野5665-5 |
---|---|
電話番号 | 0996-58-0141 |
定休日 | 12/31、1/1、1/2 |
営業時間 | 9:00~17:00 |
HP | https://www.satuma-vidro.co.jp/ |
備考 | 入館無料、見学・体験・販売あり |