三州瓦・三州鬼瓦工芸品とは
三州鬼瓦工芸品(さんしゅうおにがわらこうげいひん)は、愛知県の西三河地域で生産されている三州瓦のうち、鬼の顔を模して作られた装飾瓦のことです。
主な生産地は、高浜市、碧南市、安城市。「三州」は、この地域の旧国名に由来します。
鬼瓦は、鬼の形相で厄を払ってくれるという意味が込められ、古くから魔除けや厄除け、富の象徴や繁栄を願って和風建築の屋根に飾られてきました。近年は建築様式の変化とともに、瓦としての用途から、家の守り神として床の間飾りや玄関飾りなど、幅広くその用途を広げています。
また三州瓦は、淡路瓦、石州瓦と並ぶ日本三大瓦の一つといわれています。
豊かな土壌や海運によって繁栄した地場産業
三州鬼瓦工芸品の生産地である西三河地域は、三河湾に流れる矢作川(やはぎがわ)の河口に位置し、古来より陶磁器に適した良質な粘土が豊富に採れました。発掘調査でも、奈良時代から平安時代の頃にできたとされる窯跡から、壺や皿とともに多くの瓦が見つかっています。
また、釉薬(ゆうやく)、配合粘土業、窯業機械といった関連産業もこの地域に集まっており、瓦の生産に適した環境でした。
室町時代、各地で築城が盛んになったことで、城の屋根に使う瓦の生産が活発になっていきます。海に近く海運業も発達していたことから、江戸時代になると江戸で使う瓦の生産も増えていきました。
さらに、江戸時代中期の1720年に8代将軍徳川吉宗によって、防火や延焼を防ぐために瓦葺きが推奨されます。
高価な瓦葺きは、これまで一部の上流階級にしか使われていませんでしたが、長期の拝借金制度を設けるなどして、広く一般庶民にまで普及するように進めていきました。
明治時代には、さらに瓦の需要は急増します。明治時代初期の瓦製造は、農業との兼業で生産されていましたが、明治時代後期になると高浜市や碧南市の瓦製造業者は約350にも達していたようです。
1951年に大量生産が可能なトンネル窯が初めて導入されると、生産量が大きく向上し、国道1号線が窯の煙で前が見えなくなるほどに。そして1963年には生産量のピークを迎えました。
古来より、ほとんどの和風建築の屋根に飾られていた鬼瓦。建築様式の変化による瓦の生産量減少とともに鬼瓦の生産量も少しずつ減少していきます。屋根を飾る装飾瓦としての用途から、床の間飾りや玄関飾りなど広い意味で家の守り神としてその用途が変化していきます。
さらにランプシェードやティッシュケースなど、日常的に使用できる製品も作られるようになりました。
現在でも西三河地域には多くの瓦製造業者があり、日本の年間瓦生産総数の約70パーセント近くを占める一大産地となっています。
1995年には日本で唯一の瓦をテーマとした美術館「高浜市やきものの里 かわら美術館」がオープン。鬼瓦はもちろん、やきものに関連した絵画や写真などの展示を通して楽しく学ぶことができます。
きめ細かに美しく輝く銀灰色のいぶし瓦
三州瓦は滑らかな質感が特徴です。
矢作川上流の山間部には陶磁器に適したカオリナイトの粘土鉱物が含まれる土壌があり、その下流である西三河地域の平野に流れ込んでいます。カオリナイトの含有率が高い陶磁器粘土は、きめ細かく高品質に仕上がります。
そのため日本三大瓦である兵庫県の淡路瓦や島根県の石州瓦と比べると、「三州瓦は肌がきれい」といわれています。
また、西三河地域の土壌は農業にあまり向かなかったことも瓦製造業が地場産業として発展した理由の一つです。
さまざまな地域で生産される鬼瓦の中でも、三州鬼瓦工芸品は現在もほとんどの作業が手作り。徹底して手作りにこだわる三州鬼瓦工芸品は、その技術の高さから国宝や文化財、城郭などに使用され、その美しさや高級感は海外からも高く評価されています。
鬼瓦を作る鬼瓦職人は「鬼師」と呼ばれ、伝統的手法に基づいた熟練技術を必要とします。
三州鬼瓦工芸品のもう一つの特徴は、いぶすことで得られる独特な色合い。
粘土を成形し、乾燥させてから約1,150度の高温で2日ほど焼き締めます。その後、950度まで温度を下げて、酸素を遮断するために密封し、ガスを注入。そうすることで粘土の鉄分と炭素が化学反応をおこし、美しい銀灰色のいぶし瓦に仕上がります。またいぶすことで耐久性や断熱性も増します。
こういった古くからの伝統を守って作られる三州鬼瓦工芸品は、2017年11月に国の伝統工芸品に指定されました。
鬼瓦からランプシェードまでさまざまに形を変える工芸品
西三河地域の良質な陶磁器粘土で生産された三州鬼瓦工芸品は、伝統的な鬼面や家紋入りの鬼瓦が屋根に飾られてきました。
近年は先祖代々から使われてきた鬼瓦を庭の飾り瓦にしたり、室内で壁掛けや床の間飾りにして楽しむ方も増えてきました。また、新築祝いの贈答品として、海外の方へのお土産としても喜ばれています。
そのほかにも、マンションの室内にも気軽に飾れるミニ鬼瓦や家守鬼瓦、鬼をかたどったランプシェードやティッシュケースなど、身近に楽しめるインテリア製品も作られており、新たな楽しみ方が広がっています。
三州鬼瓦工芸品の見学・体験ができる場所
三州瓦工業協同組合
所在地 | 愛知県高浜市青木町六丁目2番地13 |
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電話番号 | 0566-53-1420 |
定休日 | 土・日・GW・年末年始・お盆 |
営業時間 | 9:00~15:00(12:00~13:00休み) |
HP | http://www.sansyuu.net |
備考 | 不定期でセミナーやワークショップを開催しています。 |
高浜市やきものの里 かわら美術館
所在地 | 愛知県高浜市青木町九丁目6番地18 |
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電話番号 | 0566-52-3366 |
定休日 | 月曜日・火曜日 (祝日の場合は翌平日)、 年末年始 |
営業時間 | 10:00~17:00 |
HP | http://www.takahama-kawara-museum.com |
備考 | 【体験メニュー】陶芸創作:1,600円、ランプシェード:2,600円、絵付け:800円 |