琉球絣とは
琉球絣(りゅうきゅうかすり)は沖縄県南風原町(はえばるちょう)で生産されている絹織物です。
琉球絣は琉球藍や福木、グール(サルトリイバラ)、テチカなど沖縄独自の植物染料や化学染料で染め上げた絹糸を織り込んで作ります。織る際には御絵図帳(みえずちょう)というデザイン集をベースに作られた図案を使用します。
工程は全て手作業で行われているため、1日1~2メートルほどしか織れない貴重な織物です。
日本の絣織物たちの母である琉球絣の歴史
絣の技術はインドで発祥し、東南アジアとの貿易を通じて1400~1500年代の琉球王朝に伝わってきました。絣織りの技術は琉球各地で発展したのち、江戸時代の日本へとその技術が伝わります。つまり、琉球絣は現在日本各地に点在する薩摩絣や久留米絣、伊予絣などの絣織物全てのルーツにあたるのです。
琉球王朝時代には図案入りの絣は身分の高い者しか着用を許されていませんでした。明治時代になり、琉球王朝は滅亡。かわりに沖縄県が配置され、日本の1県となりました。この琉球王朝の滅亡にともない、身分による服装の制限もなくなります。その結果、琉球絣は庶民にも広がり、戦前にかけて一層の発展を遂げていきます。
明治時代以降、順調に発展していた琉球絣ですが、第二次世界大戦での本土決戦により大きなダメージを受けます。生産地は戦地になり、多数の生産者の生命が奪われました。それでも琉球絣は戦後まもなく目覚ましい勢いで復興。物資も人手も少ない中、工夫をこらして生産を再開します。琉球絣はその後も発展を続け、1983年4月27日、国の伝統工芸品に指定されています。
独自の文化で育まれた琉球絣の特徴
完全分業制による圧倒的な生産量
琉球絣の製作工程は全部で16~20ほど。それぞれの工程には専門の職人がおり、分業されています。この完全分業制の導入により、ほかの織物と比べ迅速な製作が可能になりました。年間3000反以上が製作され、伝統工芸品に指定されている織物の中では圧倒的な流通量を誇っています。
全部で16~20ほどの製作工程はおもに括り、染め、織りの3つに大別できます。
括りではまず図案を作成し、それに合わせた糸の長さを選定。そして図案に沿って真芯掛け(ましんかけ)という括り作業に入ります。真芯掛けとは経糸(たていと)の束を別の糸で括ることです。真芯掛けによって糸を図案の色別に分けておくことで、染色のときにほかの糸に色が混じることを防ぎます。さらにその後は絣の模様がずれないよう糊付けが行われます。
括りの次は染めの工程です。染めではいったん絣の糊を落とした状態にし、植物染料や化学染料を使って絣をさまざまな色に染めていきます。植物染料に使われるのはグールやテチカ、福木、琉球藍などの沖縄の植物。これら天然の植物染料で絣を染める際は伝統的に鍋染めが行われます。染めの後も再度糊付けをほどこし、次の織りの工程へ入ります。
織りの工程の始まりは、括りの工程で括られた糸をほどいて図案通りに整える作業です。次に「ブーブー」と呼ばれる専用の千切箱(ちぎりばこ)に糸を巻いていきます。これは糸のもつれや緩みを防ぐためです。巻き終えたら緯糸(よこいと)が通しやすくなるように割竹を使って左から順序よく綜絖掛け(そうこうかけ)を行います。綜絖とは織るときに経糸を上下させる道具です。
ここでようやく織り作業に入っていきます。織り作業では木製の高機(たかはた)を使用。絣の柄が図案通りになるよう注意をしながら緯糸を通して織っていきます。そのため、1日で織れる量は1~2メートルほどです。
括りから織りに至るまで、全ての工程が手作業。その膨大な時間をカットするため、琉球絣の工程は完全分業制になりました。完全分業制を導入したことにより、時間を短縮するだけでなく、価格としてもリーズナブルなものになっています。
600種類以上の幾何学模様の組み合わせから生まれる豊富な図柄
琉球絣の特徴として挙げられる図柄の豊富さ。実は琉球絣の幾何学模様には一つ一つ意味が込められています。その模様の数は600種類以上。図案は琉球王朝時代に作られたデザイン集、御絵図帳を元に作られます。御絵図帳に収録された600種類以上もの図柄はそのどれもが植物や動物、生活用品などをモチーフにしています。琉球絣はまさに琉球の生活に根ざした織物なのです。
代表的な図柄であるトウイグワーは2匹の小鳥、ジンダマーは5円玉のような穴の空いた硬貨を意味しています。ほかにも井戸や雲、べっ甲、鳥のエサ箱など身近なものが琉球絣の幾何学模様に取り入れられています。これらの多彩な文様を組み合わせて図案を作るため、図柄の組み合わせは無限大です。
模様の違いを知ることで、織物一反ごとに込められた生活を垣間見られることも琉球絣の大きな魅力です。
絹でありながら麻の感触を持つ涼やかなカベ上布
絹糸でありながら麻のようなシャリ感を持つカベ上布。これは琉球絣の特徴的な製品の一つです。上布とは本来は高級な麻織物を意味する言葉です。カベ上布は使う絹糸を独特の加工にすることで麻織物の涼しさを再現しています。
カベ上布に使用される糸は2種類あります。1つ目は普通の糸。もう1つは強く撚られた糸です。この2本の糸を組み合わせると普通の糸に強く撚られた糸がスパイラル状に絡みついた形となります。そのため、糸自身に凹凸が生まれ、まるで土壁を触ったときのような感触を生み出すのです。
カベ上布は糸の特殊な構造により、普通の絹織物よりも肌に張り付きにくい絹織物となっています。
亜熱帯気候である沖縄ならではの製品で、ほかの地域の絣に比べて涼しく着用することが可能です。
琉球絣の現代での使われ方
琉球絣は、着物はもちろんのこと、最近ではネクタイやポーチなどの小物類、ワンピースなどの洋服にも使用されています。
また、絣素材のかりゆしウェアも生産されています。かりゆしウェアとは沖縄産、沖縄独自の柄で沖縄をPRするために作られた洋服です。元々は観光客を迎え入れるための服装でしたが、近年では沖縄での夏の服装として観光客からも人気の高い品です。
このように現代の琉球絣は着物だけにとどまらず、小物や洋服などさまざまな製品に加工されています。
琉球絣の見学・体験ができる場所
琉球かすり会館
所在地 | 沖縄県島尻郡南風原町字本部157 |
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電話番号 | 098-889-1634 |
定休日 | 祝日(年末年始、旧盆) |
営業時間 | 9:00~17:00(閉館17:30) |
HP | http://ryukyukasuri.com/ |
備考 | 見学コーナー、展示販売コーナー、機織りの体験コーナーがあり、かすりコースター織体験が可能です。 |
丸正織物工房
所在地 | 沖縄県島尻郡南風原町字本部31 |
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電話番号 | 098-987-0446 |
定休日 | 土日祝 |
営業時間 | 9:00~12:00、14:00~17:00 |
HP | https://marumasa-orimono.com/ |
備考 | 工房兼自宅なので、見学の際は要問い合わせ |