尾張七宝とは
尾張七宝は、愛知県で作られている七宝焼きです。あま市や名古屋市一帯で生産されており、花瓶や額、皿など、さまざまな製品があります。
花鳥風月や風景などをあしらった美しい図柄が注目され、国内はもちろん、海外の美術愛好家の間でも高評価。1995年には、経済産業省指定の伝統的工芸品に認定されています。
海外の影響を受けて発展した尾張七宝の歴史
七宝焼きの起源は、海外にあります。古代エジプト文明や古代メソポタミア文明の焼き物から、よく似たものが見つかっているのです。ツタンカーメンのマスクの一部にも、七宝焼きの技術が使われていました。エジプトやメソポタミアから欧州へ伝わった技術は、シルクロードを通って日本に入ってきたと考えられています。
日本の最も古い七宝焼きは古墳時代のものであり、700年頃の古墳から発見されました。まだまだ原始的なものでしたが、本格的な生産が始まる以前から、すでに近い技術が存在していたことがわかります。古墳時代以降は、寺院や城の建具などによく使われていました。
尾張七宝の始まりとされる出来事が起こったのは、江戸時代に入ってからです。1833年、尾張藩士であり陶芸家の梶常吉(かじつねきち)が、オランダから輸入された七宝焼きを見て、それまでの技法に改良を施しました。
海外の製品からヒントを得た新たな技法が広まったことで、七宝焼きの生産はより活発化。始まりの地となった尾張地方は、日本の七宝製造の中心となります。尾張の職人が作った製品は、次第に尾張七宝と呼ばれるようになり、知名度を高めていったのです。
幕末になると、尾張七宝は世界的に評価されるようになります。1867年のパリ万国博覧会に出品された際、海外でもその品質が注目され、多くの日本人作家が受賞。それ以来、日本の優れた七宝焼きが、各地の万国博覧会に多数出品されるようになりました。
しかし、戦争が始まると冬の時代が訪れます。1940年に施行された奢侈品(しゃしひん)等製造販売制限規則により、贅沢品とみなされた尾張七宝は、製造中止となってしまったのです。この時期に、いくつかの貴重な技術が失われたとされています。
尾張七宝が復活したのは、1943年。当時の官選知事だった吉野信次(よしのしんじ)が、地域の産業として生産を再開させました。現在は、さまざまな工夫を加えた新しい製品が作られるようになり、より多くの人々を魅了しています。
美しい釉薬に覆われた尾張七宝の特徴
尾張七宝の大きな特徴は、表面に施された華やかな図柄です。主に描かれているのは、桜、梅、胡蝶蘭(こちょうらん)といった花や風景、双鶴(そうかく)など。いずれも美麗な図柄ばかりであり、七つの宝を散りばめたように美しいという意味で、「七宝」の名が付けられたほどです。
図柄を描く際は、ガラス質の釉薬(ゆうやく)を用いています。色とりどりの美しい釉薬を銅や銀の金属素地に乗せ、熟練の技術で丁寧に焼き付けることで、きらびやかな風合いを表現。ガラスの輝くような美しさ、複数の色が折り重なった深みのある色彩などは、尾張七宝独特の魅力として知られています。
尾張七宝の代表的な技術は、「有線七宝」と呼ばれるものです。有線七宝は、素地の下絵に合わせて金属線を立て、輪郭を作ったうえで釉薬を乗せることが特徴。近代の七宝製作では基本的な技術となっており、多くの製品で用いられていますが、習得に10年以上かかるという高度な技です。
伝統を大切にする尾張の七宝製造では、ほかにも多くの技法が継承されてきました。ぼかしの表現に適した「無線七宝」、立体的な図柄を描き出す「盛上(もりあげ)七宝」、ガラス製品のような見た目を再現する「省胎(しょうたい)七宝」など、さまざまな技法によって、優れた製品が生み出されています。
また、表面を覆う釉薬の効果により、保存性が高くなっていることも魅力です。ガラス質の釉薬を使う尾張七宝は、エナメル質の膜に保護されている状態なので、傷やカビによる劣化を防ぎ、美しさを長く維持できるのです。衝撃によるひび割れには要注意ですが、風合いが崩れにくい安定感は、国内外で高く評価されています。
尾張七宝の現在とお手入れのコツ
現在の尾張七宝は、昔から生産されてきた皿や花瓶などのほかに、時代に合わせた製品も作られるようになりました。尾張七宝は、困難な時期を乗り越え、長く受け継がれてきた伝統的な焼き物。その魅力を次の世代にも伝えていくため、若い職人が積極的に新商品を開発しているのです。
ブローチやペンダントなどのアクセサリーは、わかりやすい形で尾張七宝の魅力を表現し、新たなファンを獲得することに成功しました。20~30代の若い層や、女性からの人気が高まり、現在も高品質な製品が生産され続けています。
手入れの際は、基本的に軽く拭くだけで構いません。汚れが付着したら、水で優しく洗い流し、柔らかい布を使って水気を取り除きましょう。銀線が黒ずんできた場合は、市販の銀クロスで軽く磨けば、元の輝きを取り戻すことができます。
全体がガラス質で覆われた尾張七宝は、簡単な手入れを行うだけでも、色褪せることはありません。常に大切に扱いながら、職人のこだわりが詰まった製品を、長く楽しんでいきましょう。
尾張七宝の見学・体験ができる場所
あま市七宝焼きアートヴィレッジ
所在地 | 愛知県あま市七宝町遠島十三割2000 |
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電話番号 | 052-443-7588 |
定休日 | 毎週月曜日・祝日の翌日(ただし翌日が月曜の場合は、その翌日)・年末年始(12月29日~1月3日) |
営業時間 | 交流ホール9:00~21:00、その他の施設 9:00~17:00 |
HP | https://www.shippoyaki.jp/index.html |
備考 | 七宝焼き作品や製作道具の展示、七宝焼き製作体験、製作工程の見学 |
有限会社加藤七宝製作所
所在地 | 愛知県名古屋市西区香呑町4-13 |
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電話番号 | 052-531-1382 |
定休日 | 土日祝 |
営業時間 | 9:00~18:00 |
HP | https://katoshippo.com/ |
備考 | 大人のための尾張七宝体験教室 |