長崎べっ甲とは
長崎べっ甲とは、長崎県長崎市を中心に作られている工芸品です。
原材料は「海の宝石」とも呼ばれる、ウミガメの一種・タイマイの甲羅。黒色とアメ色がまだらになった一般的な模様のほか、アメ色一色の非常に希少な模様もあり、その独特の美しさから多くのべっ甲愛好家を魅了し続けています。
長崎べっ甲の歴史と鎖国政策
長崎べっ甲のはじまりは、江戸時代にまでさかのぼります。
1603年に長崎で編纂(へんさん)された日葡(にっぽ)辞書によると、べっ甲の原材料であるタイマイは「中国人が細工物を作る亀の甲羅」という意味でした。ちょうどその頃、日本は鎖国政策の真っただ中。
そんな中、長崎の出島は日本唯一の貿易港として、オランダや中国から輸入品を受け入れていました。その中でべっ甲の加工技術が伝えられたのと同時に、原材料であるタイマイを入手していたといわれています。
当初は非常に高価なものであり、手にできる人はごくわずかな富裕層や遊女たちに限られていました。長崎べっ甲が多くの人気を集めるようになったのは、鎖国政策の開始から約200年後の開国後です。
自由に往来できるようになった外国人たちの間で長崎べっ甲の人気が高まり、徐々にデザインが多様化されていきました。これにより、一般の人でも手に取りやすい価格の品も増え、国内外での評価が更に高まっていったのです。
しかし、1973年に締結されたワシントン条約によってタイマイの輸出入が停止されると、原材料の入手が困難になります。長崎べっ甲を今でも生産している工房は、ワシントン条約以前に輸入されたタイマイの残りを利用しています。
2017年に国の伝統的工芸品に指定されましたが、2020年には長崎べっ甲の老舗が惜しまれつつも閉店。今後の生産継続に向けて、タイマイの産卵・育成といった増殖方法を模索している工芸品でもあります。
美しさと使いやすさの両刀が光る長崎べっ甲の特徴
絶妙な熱加減と磨きが生み出す芸術
長崎べっ甲は、タイマイの甲羅を複数組み合わせて作ります。互いの甲羅を張り合わせるときには、人工的な接着剤を一切使用しません。タイマイの甲羅には熱によって形を変える特性があるため、熱した火箸や鏝(こて)で接着していくのです。かんざしなど曲線を必要とする装飾品の場合は、熱湯で煮て柔らかくした上で、ゆるやかなカーブを描いた型で成形していきます。タイマイへの熱の加わり方、熱した火箸や鏝の冷め具合などに合わせて加工スピードを変えるため、職人の技とセンスが光る作業工程といえるでしょう。
そうして形作られたべっ甲は丁寧に磨き上げられることで、深みのある光沢を放つようになります。まさに、長崎べっ甲の美しいいでたちは、職人の絶妙な熱加減と磨きが生み出しているのです。
デザイン性と機能性の両立
長崎べっ甲はさまざまな加工品へ姿を変え、まるで「長崎べっ甲に作れないものはない」といわんばかりに種類が豊富です。これは長崎べっ甲が人気を博した原点、外国人のニーズに合わせてデザインを多様化させたことにあるのでしょう。外国人の要望に合わせ、写真額やステッキなどを生産していくうちに、どんなものにでも加工できる技術が発展していったのです。
具体的には、かんざしや帯留め、扇子といった和装小物はもちろん、ブレスレットやネックレス、イヤリングなどのアクセサリー類があります。また、くつべらや耳かきといった日用品、茶道の道具を販売している工房も。中には、人力車や宝船を模した置物に至るまで製造・販売している工房さえあります。
このようにデザインが豊富な長崎べっ甲ですが、機能性も劣っていません。特に眼鏡や指輪など直接身に着けて楽しむ長崎べっ甲は、体温によって徐々に変形し、使用者の身体にフィットします。また、繊維の方向性が一定であり、身に着けていてもすべりにくい特徴も。
デザイン性・機能性どちらも素晴らしい工芸品として、今なお多くのべっ甲愛好家たちに親しまれています。
長崎べっ甲の現代での使われ方とお手入れ方法
現代における長崎べっ甲は、和装・洋装小物として身に着けたり、置物として楽しんだりすることが多いです。
お手入れは、柔らかい布で空拭きするだけ。汚れがついていないときでも日常的に空拭きすることで、長崎べっ甲独特の光沢を長く楽しむことができます。
ただし、劣化の原因になるため、水洗いは避けましょう。急激な温度変化は亀裂が生じる恐れがあるため、冷暖房器具の近くなどには置かないようにしてください。長期間保管するときには防虫剤を同封し、虫食いを防ぎます。
修理の際は、残っている部分に新しいべっ甲を張り合わせる形になります。タイマイの張り合わせ方によって修理に要する時間や費用が異なるため、事前に製造元へ相談すると安心です。
長崎べっ甲の見学・体験ができる場所
長崎べっ甲工芸館
所在地 | 長崎県長崎市松が枝町4-33 |
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電話番号 | 095-827-4331 |
定休日 | 12月29日~1月3日 |
営業時間 | 9:00~17:00 |
HP | https://www.city.nagasaki.lg.jp/kanko/820000/828000/p000826.html |
備考 | 見学のみ 一般100円 小・中学生50円 団体(15名以上)一般80円 小・中学生30円 |
べっ甲細工の店 まるとみ
所在地 | 長崎県長崎市五島町8-5 |
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電話番号 | 095-821-0103 |
定休日 | 土日祝、年末年始 |
営業時間 | 9:00~17:30 |
HP | https://marutomi.jpn.com/marutomi2/ |
備考 | 購入のみ |