松本家具とは
松本家具とは、長野県松本市やその周辺で作られている民芸家具を指します。民芸家具は家具の中でも、民衆が暮らしの中で使うために作られたものです。普段の生活に馴染みのあるような家具が多く、温かみを感じられるのが民芸家具の特徴といえるでしょう。
松本家具を作っている長野県松本市は、江戸時代から300年以上も家具作りを継承している地域です。当時から職人が1つ1つ丁寧に作り上げていて、天然木ならではの木目を活かした美しい仕上がりが特徴的。中でもイギリスやアメリカのウィンザーチェアを手本にしたイスは非常に美しく、松本家具の象徴といわれています。
木の重みを感じられる重厚な作りにもかかわらず、思わずホッとしてしまうような落ち着きのある風合いも印象的です。使い込むほどに木の美しさが引き出され、何十年経っても色褪せない美しさを誇ります。
現在でもさまざまな場所で販売されており、現代ならではの家具もたくさん作られていますよ。高級な家具のためなかなか購入はできませんが、長期間使えることを考えると十分な価値があるといえるでしょう。
松本家具の歴史は城下町から
松本家具の始まりは、今から300年以上前の安土桃山時代。現在の松本市に城下町が誕生した1600年代半ばに商工業の1つとして生まれ、さまざまな製品を作っていました。
現在のような民芸家具が本格的に作られるようになったのは江戸時代に入ってからで、タンスやテーブルのような一般的な家具を多く生産していたそうです。当時は城下町や周辺の需要に合わせて家具を生産していましたが、交通の便が発達してくると同時にさまざまな家具を作り始めます。最初は地元のみで使われていた松本家具も、徐々に全国へと知られるようになっていきました。
松本家具は、江戸時代後半には全国各地に浸透しはじめ、さらに大正時代に入ると、国内でも有数の和家具として繁栄していきます。しかし、日清戦争や日露戦争などの影響により、一時は生産中止を余儀なくされてしまいました。それまで順調に家具を作り続けてきた松本家具も、戦争を前になす術もなかったのでしょう。
さらに時が経ち1948年になると、池田三四郎が民芸家具の1つである松本家具を復興させようと動き始めます。彼は民芸運動家である柳宗悦の講演を聞き、民芸品の魅力に心を打たれたのだといわれています。
池田氏は木工職人や陶芸家を集め、自ら指導をしながら松本家具の復興へと尽力します。1953年にはバーナード・リーチがイギリスから来日し、ウィンザーチェアの製作へと導きました。ウィンザーチェアの製作をきっかけに、松本家具は復興へと大きな一歩を踏み出します。
そしてついに1976年には伝統工芸品へと指定され、現在まで高度な技術が受け継がれています。
無垢材を「組手接手」で組む松本家具
松本家具の最大の特徴は、ミズメザクラや栃(とちのき)、楢(なら)や欅(けやき)などの無垢材を「組手接手(くみてつぎて)」と呼ばれる技法でつなぎ合わせて作る点です。組手接手とは、木材を複雑な形にカットして組み合わせる技法を指します。釘などでつなぎ合わせる一般的な家具とは異なり、木をつなぎ合わせて接着して組み上げていくのが特徴です。
無垢材を使用しているため、木の香りや風合いを最大限に楽しめるのも嬉しいポイント。自然の木目を活かし、ナチュラルに仕上げているのも魅力です。
仕上げには「拭漆塗(ふきうるしぬり)」を施し、ほどよい艶感を演出。拭漆塗はサッと拭うように薄く漆を塗る技法で、薄く塗ることで木の良さをしっかりと残しつつ美しさをプラスしています。
使用する木材は厳選されたもので、しっかり乾燥させることで腐食を予防。さらに墨付けと呼ばれる印付けを行い、正確に組み上げて壊れないようにしています。
正確に組み上げられた家具は耐久性に優れ、長期間使用しても劣化しにくいのが特徴です。さらには、時間の経過が美しい木の風合いを生み出してくれますよ。
現代でも親しまれる松本家具
松本家具は現在でも限られた職人によって作られており、代表的なウィンザーチェアやタンスなどさまざまな家具を生み出し続けています。ほかにも、時代に合わせたテレビボードやオシャレなワゴンなども製作。地元で愛されているほか、オンラインショップやショールームなどでも松本家具の良さが広まっていますよ。
松本家具はこだわりをもって良い素材で作られているため、一般的な家具よりもかなり高価です。しかし、それだけの価値がある民芸家具といえるでしょう。しっかり管理すれば子どもや孫の世代まで使えるため、購入する際はお手入れ方法もチェックしておくと安心です。
松本家具は普段のお手入れをしっかりすることで味わいが増し、時が経つごとに美しさに磨きがかかります。日々のお手入れの際は、乾いた柔らかい布でキレイに拭き上げ、汚れや水分を残したままにしないよう注意しましょう。
また、酷い汚れが付いたときは固く絞った布で濡れ拭きをしたあと、乾いた布で拭き上げます。それでも汚れがとれないときは、薄めた中性洗剤などを付け、汚れを落としてから乾拭きしてください。
表面には特殊な塗装が施されているため、アルコールや薬剤などは使わないようにしましょう。成分によっては表面の塗装を溶かしてしまい、せっかくの美しさが損なわれてしまいます。
松本家具の見学・体験ができる場所
松本民芸家具
所在地 | 長野県松本市中央3-2-12 |
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電話番号 | 0263-33-5760 |
定休日 | 年末年始のみ |
営業時間 | 9:30~18:00 |
HP | http://matsumin.com/ |
備考 | ショールームの見学やオンラインショップなど |
松本民芸館
所在地 | 長野県松本市里山辺1313-1 |
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電話番号 | 0263-33-1569 |
定休日 | 毎週月曜日(祝日の場合は翌平日)、年末年始 |
営業時間 | 9:00~17:00(入館は16:30まで) |
HP | https://matsu-haku.com/mingei/ |
備考 | 博物館の見学(作品展示)、ショップなど |