熊野筆とは
熊野筆(くまのふで)とは、広島県安芸郡熊野町で生産される筆。筆の穂首には、ヤギ、ウマ、タヌキ、シカ、ネコなどの動物の毛が使われています。伝統的な技術を基に書筆、画筆、化粧筆など、さまざまな種類の筆が作られています。
熊野筆は優れた伝統技術とその伝承が認められ、1975年に広島県では初めて国の「伝統的工芸品」に指定されました。近年では、その高い品質が国内のみならず、海外でも非常に評価されています。
出稼ぎから始まり進化を続ける熊野筆の歴史
熊野筆の歴史は、江戸時代末期の1700年代後半から始まったといわれます。当時、山に囲まれ農地が少ない熊野の人々は、農閑期になると奈良や和歌山へ出稼ぎに出ました。そして、出稼ぎの帰りには奈良や大阪、兵庫で筆を仕入れ行商しながら熊野へ帰りました。これが熊野と筆の関わりのきっかけです。
その後、熊野の若者達が筆作りの技術を学び始めます。1835年から、佐々木為次は筆作りが盛んな兵庫の有馬で、4年間筆作りを学びました。
また、1846年には井上治平が広島の浅野藩御用達筆司である吉田清蔵から、同じ頃、乙丸常太は有馬で技術を習得しました。そして、彼らは熊野の人々に筆作りを伝授し、産業として根付かせたのです。
明治になると、筆の需要は飛躍的に拡大します。理由は1872年に学校制度が、1900年には4年間の義務教育制度が成立したため。これらによって多くの子供たちが習字で使用する筆が必要になったのです。そこで、熊野では筆作りに携わる人が増加。さらに、技術が磨かれていきました。
第二次世界大戦に入ると、人手と原料の不足から熊野の筆産業は衰退します。さらに、戦後すぐに学校での習字教育が抑制され、書筆の需要は激減しました。そこで、1955年頃になると熊野では書筆作りの優れた技術を生かし、絵画を描く画筆や化粧筆の生産が新たに始まりました。
1975年、優れた伝統と技術が認められ、国の「伝統的工芸品」に指定された熊野筆。2016年の「G7伊勢志摩サミット」では、来賓者と報道陣への記念品として熊野筆の化粧筆が配布されました。このように、熊野筆は世界に誇れる日本の優れた製品として評価されています。
厳選された材料から作られる熊野筆の特徴
熊野筆の材料は、軸が竹や木、穂首(毛の部分)がヤギ、ウマ、シカ、イタチ、ネコなどの獣毛です。材料の毛は動物や生産地、部位などによって異なる特徴を持つため、用途に合わせ細かく使い分けをします。
熊野筆は繊細な作業の積み重ねで作られ、その工程は72工程といわれています。作業は多くの毛から良質で筆の種類に合う毛を厳選する重要な工程からはじまります。次に、不要な毛を抜きながら幾つもの工程を経て、長さや量を整えた穂首ができあがります。その後、軸と穂首を調整しながら接着し、最後に軸に筆の名などを彫刻して完成します。
熟練した職人によって丁寧に作られる熊野筆。筆の種類は大きく分けると書道の書筆、日本画や洋画の画筆、メイクの化粧筆があり大変豊富です。また、熊野筆の品質は非常に高く、その技術は世界でも最高レベルを誇るといわれています。
熊野筆の現代での使われ方とお手入れ方法
現在、熊野筆は書筆、画筆、化粧筆として初心者から専門家まで幅広く使われています。
書筆は穂首の長さと大きさにより、小筆、中筆、大筆に大きく分けられます。小筆はかな文字や手紙に、中筆は表現の幅が広く、大筆はダイナミックな表現ができる筆として使われています。
画筆は、使用する絵の具によって異なる筆を使います。種類は水彩画やアクリル画、油彩画、日本画、絵手紙、友禅や陶芸用などがあります。
化粧筆は、大きめのベースブラシから、チーク、コンシーラー、アイブロー、アイシャドウ、リップ、洗顔ブラシなど。使う化粧品や部位、仕上がり具合に合わせた数多くの筆が作られています。
熊野筆は、お手入れ次第で長く愛用することができます。
書筆は、根元までほぐして使った場合、毛についた墨をしっかりと根元まで洗い落とします。次に、毛をまっすぐに整えて、穂先を下向きにして風通しのよい日陰で乾燥させます。根元までほぐしていない小筆などは、水を含ませた半紙で墨をふき取ります。ほぐしていない固い部分は、ほぐさないようにしましょう。
筆のキャップは、カビと切れ毛を予防するために、毛が乾燥してから付けましょう。
画筆も書筆と同様に絵の具をしっかりと洗い落とし、風通しのよい日陰で乾燥させます。油彩絵具など落ちづらい画材は固形石けん(薬用の石けんは不可)を使ってもいいでしょう。
化粧筆は、基本的に使用後すぐにタオルなどの凹凸がある布で軽くなでて粉を取ります。口紅はティッシュでふき取ります。汚れがひどい場合は、ぬるま湯にシャンプーを薄くといて洗いましょう。しっかりとすすいで毛を整え、風通しのよい日陰で乾燥させます。
熊野筆の見学・体験ができる場所
筆の里工房
所在地 | 広島県安芸郡熊野町中溝5-17-1 |
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電話番号 | 082-855-3010 |
定休日 | 月曜日(祝日の場合は翌日)、年末年始 ※臨時休館あり |
営業時間 | 10:00 ~ 17:00 |
HP | http://fude.or.jp/jp/ |
備考 |
展示、販売、見学、体験 入館料:大人800円、小中学生250円、未就学児 無料 (展示内容によって変更となります) 毎年5月5日は小中学生の入館料無料 筆作り体験:3,500円 |
晃祐堂 化粧筆工房
所在地 | 広島県安芸郡熊野町平谷4丁目4-7 |
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電話番号 | 082-516-6418 |
定休日 | 日曜日、祝日 |
営業時間 | 9:00~17:00 |
HP | https://www.koyudo.co.jp/ |
備考 | 販売、見学、筆作り体験 ※要予約工場見学:無料筆作り体験:1,100円~3,300円(税込) |