甲州手彫印章とは
甲州手彫印章(こうしゅうてぼりいんしょう)は、主に山梨県甲府市、西八代郡市川三郷町で作られている印章です。とくに西八代郡市川三郷町は「ハンコの里」と呼ばれており、ハンコ文化が根付いている地域となります。
原料は、柘(つげ)、水牛、水晶といった良質な素材を使用しています。その中でも水晶を使用した印章は、山梨県以外ではほとんど作られていません。そういった理由から、甲州手彫印章は希少価値のある高品質の印章となります。
印章王国の始まりと甲州手彫印章の歴史
甲州手彫印章の始まりは、御岳山系から良質な水晶が発見されたことがきっかけでした。1837年には甲府市の近くにある御岳に水晶を加工する工場が設立され、多くの加工技術が発達しました。この技術の発達により、数多くの加工職人が誕生しました。
その中でも板木師(はんぎし)と呼ばれる板に文字を彫る技術をもつ職人が登場したことで、彫刻技術も発達していくことになります。そして、柘、水牛、水晶が印材として使用されることになりました。
印章業については、1854年に作成された「甲州買物独案内(こうしゅうかいものひとりあんない)」と呼ばれる当時のガイドブックに記載がありました。そのため、甲州手彫印章は江戸時代後期には存在していたことがわかります。
また、この文献によるとすでに熟練した職人が存在し、商売をおこなっていたことも記載されていました。しかし、全国的には甲州手彫印章は無名の存在でした。この時代の日本では、一般市民の間で印章が身近なものではなかったからです。
甲州手彫印章の存在が本格的に日本全国に広まったのは、明治時代に入ってからでした。1873年の「太政官布告(だじょうかんふこく)」により、証書には実印が必要となったためです。
この法令により、一般市民の間で印章の存在が広まります。そして、印章の需要が高まったことで、甲州手彫印章も認知されることになりました。山梨県では、出張販売をおこなうことで市場を拡大していきました。
市場の拡大と同時に、甲府市内の職人の中では甲州手彫印章の技術を継承する動きもありました。山梨県内において、市場拡大や技術継承が積極的におこなわれたために「印章王国山梨」が誕生したのです。
華やかな印影を作り出す甲州手彫印章の特徴
甲州手彫印章には、2つの特徴があります。1つは印影がとても美しいこと、もう1つは複製することができないことです。
1つ目の特徴である美しい印影を表現できる理由は、すべての工程を手作業でおこなうためです。とくに字入れや字直しと呼ばれる工程を熟練した匠の技により、手作業でおこなうことで印影が華やかなものになります。
字の繊細さを表現できるのは手彫りの魅力です。同じ名前を彫っても、職人によって印影の美しさはまったく違います。
また、この匠の技を可能にしているのは古くから伝わる道具の存在です。甲州手彫印章で大切にされていることは、道具と技法になります。甲州手彫印章を作るにはきめ細やかな作業が必要であるため、どちらも欠かせない要素です。
美しい印影を表現するためには道具の手入れは欠かせません。手作業でおこなう以上、道具も常に最高の状態を保つ必要があるのです。
2つ目の特徴についても、すべての工程を手作業でおこなうことが関係しています。甲州手彫印章はすべて手作業で作られるため、まったく同じ印章を作成することはできません。それは、複製できないということです。
この点から甲州手彫印章は個人を証明するものとしては、唯一無二の存在となります。
甲州手彫印章の現代での使われ方とお手入れ方法
甲州手彫印章は、通常の印章と同様に実印や認印として使用されています。その中でも、商談などの重要な場面で登場する認印として使用される場面が多いです。
手作業で作られる甲州手彫印章は、複製できないことから重要な場面で大活躍しています。その反面、高品質な印章であるため、日常生活で気軽に使用する方は少ないです。
しかし、甲州手彫印章を使用することは相手に良い印象を与えることにつながります。その根拠は、甲州手彫印章が唯一無二の美しい印影を持っているためです。
手書きで書かれた文章を読む際も、汚い文字よりも綺麗な文字を見たほうが良い印象をもつことができます。それと同様に、汚い印影が押された書類よりも綺麗な印影が押された書類のほうが相手に与える印象は良いのです。
甲州手彫印章を長く使用するためには、日々のお手入れも欠かせません。印章を使用した後は、ティッシュや布で丁寧に朱肉を拭き取ることが、一番簡単なお手入れ方法です。
その際には、ティッシュの切れ端や布の繊維が拭き取った箇所に付着していないかも確認する必要があります。
また、ケースも落とさないように注意することが大切です。(落とすと印章が欠ける恐れがあります。)
日々のお手入れを欠かさずにおこなうことが、甲州手彫印章を1日でも長く使用する秘訣となります。
甲州手彫印章の見学・体験ができる場所
やまなし伝統工芸館
所在地 | 山梨県笛吹市石和町四日市場1566 |
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電話番号 | 055-263-6741 |
定休日 | 土曜日、日曜日、祝祭日、年末年始 |
営業時間 | 9:00~17:00 |
HP | http://www.teikyo.jp/crafts-yamanashi/index.html |
備考 | 定期的に展示会が開催されます。 |
望月煌雅
所在地 | 山梨県西八代郡市川三郷町岩間1134-1 |
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電話番号 | 0556-32-3121 |
定休日 | 日曜日、祝祭日、弊社が定める定休日 |
営業時間 | 9:00~17:00 |
HP | http://koga-m.com/ |
備考 | 工房体験・製作体験ができます。 |