木曽漆器とは
木曽漆器(きそしっき)とは長野県塩尻市木曽平沢を中心に作られている漆器です。
漆器とは漆(うるし)を塗り重ねて仕上げる、食器を中心とした工芸品のこと。漆は縄文時代から利用されており、耐久性を高めたり美しく装飾したりする働きがあります。
中山道の旅人に愛された木曽漆器
山に囲まれた木曽はヒノキが豊富にあり、産地として知られていました。
木製品も古くから作られていましたが、より使いやすくするために漆が塗られるようになりました。
塗った漆が乾くというのは水分が飛ぶことではなく、逆に水分を取り込んで硬くなるのです。そのため空気が乾燥しているとうまく乾きません。また気温が高すぎても低すぎてもだめです。
海抜約900メートルの高地にあり山に囲まれた塩尻の気候は漆塗りに適しており、漆器作りが盛んになりました。
古くから木曽路と呼ばれる街道が通っている地域でしたが、江戸時代に入ると江戸〜京都間を結ぶ街道の一つ、中山道として整備されました。
宿場もでき、多くの旅人が通るようになると、木曽漆器はお土産として人気を博すようになります。蒔絵を施した高級な漆器とは違い、日常使いできる木曽漆器は一般民衆でも買えたからです。
危機が訪れたのは1700年代初頭。建築などに使うために大量の木材が伐採され続け、資源が枯渇するおそれがあったため、「停止木制度(ちょうじぼくせいど)」という木材保護政策が行われました。
ヒノキなど5種類の木を伐採することが禁じられたのです。
このため木曽漆器は存続の危機を迎えましたが、代官の庇護を受けて伐採を許可され、発展しました。
明治時代に入ると、近くで「錆土(さびつち)」が発見されました。錆土は鉄分を多く含んだ土で漆と相性が良く、下地として使うと堅牢な仕上がりになります。他の産地の漆器と比べて割れにくく、丈夫で使い勝手が良いとしてさらに人気が高まりました。
1960年代の高度成長期には各家庭や旅館・ホテル用の漆塗り家具のニーズが高まり、座卓もよく作られるようになりました。
1975年には「伝統的工芸品」に指定され、2006年には産地の中心である木曽平沢が「重要伝統的建造物群保存地区」に選ばれています。
異なる技法で様々な表情を見せる木曽漆器
錆土を下地に用いるため、丈夫さと美しさを兼ね備えているのが木曽漆器です。
木曽漆器は漆塗りの方法が1種類ではありません。代表的な技法は3つあり、それぞれに異なった表情を持っています。
木曽春慶(きそしゅんけい)は下地をつけずに最初から漆を塗り、木目の美しさを活かす技法です。彩色した後、何度も生漆を擦り込んでから、春慶漆という透明度の高い漆で仕上げます。
木曽堆朱 (きそついしゅ)は木曽変わり塗とも呼ばれる技法。タンポという道具を用いて型置き(模様づけ)した上から何色もの漆を塗り重ねた後、砥石と水ペーパーで研いで模様を出します。
塗分呂色塗 (ぬりわけろいろぬり)は顔料を混ぜた精製彩漆で幾何学模様に塗り分ける技法。上塗りした後に表面を磨き、鏡のようなツヤを出します。
木曽漆器の現代での使われ方とお手入れ方法
木曽漆器は食に関わるものが多く作られています。お盆やお椀、箸といった日常使いの食器のほか、長野県の名産品であるそば関連のものも。
以前は「宗和膳(そうわぜん)」と呼ばれる銘銘膳(一人用のお膳)が主流でしたが、生活習慣の変化であまり使われなくなりました。木材に溝を入れて曲げることでカーブを作る挽き曲げ(ひきまげ)という技法で作られており、この技法を活かして現代的なアイテムを作る試みもなされています。
「めんぱ」と呼ばれるお弁当箱や、高度成長期に家庭や旅館に普及した座卓も人気があります。
木曽漆器を洗う時には、たわしでこすったり、底のざらっとした陶器と重ねたりしないよう気をつけましょう。漆器は柔らかい素材のため、傷がついてしまいます。
つけ置きや食洗機も避けたほうが無難で、柔らかいスポンジと食器用洗剤で手洗いすればOKです。
洗った後は自然に乾かすより、手間がかかっても拭くのがおすすめ。ツヤが増しますし、長持ちするようにもなります。
変色することがあるので、保管する時は直射日光の当たらない場所にしまいましょう。乾燥しすぎると割れる可能性があるので、湿度にも注意が必要です。重ねると傷がつかないか心配な場合は、布を挟むのがおすすめです。
特別な食器としてしまいこんでしまうよりも普段から使ったほうが、ツヤが出て美しさが増します。それでも漆が劣化してしまった場合には、塗り直して修理してもらうことも可能です。
木曽漆器の見学・体験ができる場所
木曽漆器館
所在地 | 長野県塩尻市大字木曽平沢2324-150 |
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電話番号 | 0264-34-1140 |
定休日 | 月曜日・祝日の翌日・12月29日~1月3日(冬季臨時休館することがあり) |
営業時間 | 4~11月:9:00〜17:00、12月~3月:9:00〜16:00 |
HP | http://www.city.shiojiri.lg.jp/tanoshimu/hakubutukan/kisoshikkikan.html |
備考 | 製作工程や作品、資料の展示のほか、漆塗り・漆絵付け体験もあり |
道の駅 木曽ならかわ
所在地 | 長野県塩尻市木曽平沢2272-7 |
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電話番号 | 0264-34-3888 |
定休日 | 無休(臨時休館はHPにて告知) |
営業時間 | 9:00〜17:00 |
HP | https://www.kiso.or.jp/ |
備考 | 【「木曽堆朱」の模様研ぎ出し体験メニュー】急須敷40〜60分1800円、スプーン40〜60分2000円、箸80分2000円 |