紀州漆器とは
紀州漆器とは、和歌山県海南市の北西部「黒江(くろえ)地区」を中心に生産されている漆器のことをいい、通商産業省(現経済産業省)より伝統的工芸品に指定されています。
黒江塗りとも呼ばれ、朱塗りの表面から黒塗りの下地が現れるのが特徴で、使用感に趣を感じられます。
会津漆器、山中漆器とあわせて「日本3大漆器」といわれ、他に輪島塗や越前塗も有名です。
根来塗の歴史と紀州漆器の発展
紀州地方では、室町時代より紀州ヒノキの渋地の木椀が製造されておりました。また、和歌山県北部の根来寺(ねごろでら)の僧侶によって、黒漆の上に朱漆を塗った根来塗が日常的な食器に用いられるようになり、紀州漆器の基本となります。
1585年に豊臣秀吉が紀州征伐を行った際、難を逃れた僧侶によって漆器生産の場は海南市に移ります。根来寺はしばらく復興を許されませんでしたが、紀州徳川家の庇護で真義真言宗(しんぎしんごんしゅう)の総本山として再建され、江戸時代中期には紀州漆器の生産も最盛期を迎えます。
江戸時代後期には、小川屋長兵衛(おがわやちょうべえ)という工人による堅地板物の製作の成功と、蒔絵の装飾が加えられ、さらに上質な紀州漆器が製作されました。
廃藩置県により紀州藩の保護下ではなくなった後も、海外との貿易で紀州漆器が受け入れられ、輪島塗に用いられている沈金彫りの加飾技術の導入や、京都の蒔絵師の招聘で、よりよい漆器づくりへの努力が認められます。
昭和時代以降、天道塗、錦光塗(きんこうぬり)、シルク塗などの変わり塗りが考案され、木椀だけでなく合成樹脂などの素材が取り入れられるようになりました。より現代の日常生活に取り入れやすい製造法と素材で、消費者に愛される工芸品を目指しています。
丈夫で実用的な紀州漆器の技法
紀州漆器の特徴は、黒塗りの上に朱漆を塗ることで強度を高め、日常生活で長く使えることです。
漆液は、中国や日本産のウルシの木の樹液で、主成分であるウルシオールが適度な湿度の気候で酸化し固まることで、水や熱に強い耐久性を持ちます。採漆された生漆は、精製とろ過によって純度を増します。
昭和以降には、漆液の代わりとなる塗料のカシュー塗装やウレタン塗装などを用いた製品も多く出回っています。
器の原材料となる檜(ひのき)、楠、栃(とちのき)は適度な大きさにカットした後乾燥させ、木地となります。器の形になるように木取りし、鋸(のこぎり)やカンナで表面を滑らかにし、各部分をつなぎ合わせます。木地加工を行うごとに乾燥させて木地を狂わせ、ひびや割れを防ぎます。
下地工程では、形状をさらに補修しながら、補強も行います。下地工程の後は下塗り、中塗り、上塗りの工程があります。漆が硬化するには湿度70~80%、温度20~30度が必要だといわれており、塗りが終わるごとに器を漆風呂と呼ばれる専用の室内で硬化させます。上塗りではより厚めの漆を塗ることで摩耗を防ぎます。乾燥の際は、漆が均一になるように数回上下をひっくり返しながら硬化させます。
上塗りの後に、調合を工夫した漆を用いた変塗りや、下地の漆を研いで艶だしを加えるなどして、色に変化を出すこともあります。
塗り上がった器に美しく加飾を行い、ハイセンスな印象に仕上げます。金粉・銀粉・錫粉を散りばめた蒔絵や、金箔や貝殻を貼り付けた沈金・螺鈿などの技法があります。
紀州漆器の現代での使われ方とお手入れ方法
紀州漆器の使われ方
紀州漆器は膳・椀・盆・厨子などの什器として作られてきた歴史があります。室町時代から江戸時代、現代に続く伝統に敬意を表し、1949年には重要漆工業団地として国の指定を受け、1978年に通商産業省(現経済産業省)より伝統的工芸品に指定されました。
近年では、日常生活の道具として、お椀、弁当箱、箸などの数多くの紀州漆器が製造されるようになっています。安心の国産の紀州漆器は、自分へのご褒美や友達への贈り物にもおすすめです。
蒔絵などで仕上げた高級漆器は晴れの日の道具や鑑賞用として大切に用いられ、職人技が光ります。海外貿易でも取引される正統派の工芸品です。
お手入れ方法
紀州漆器は日光、高温や水に長時間さらさないでください。お椀は熱いものを入れることができますが、直火、電子レンジ、オーブンなどで加熱しないでください。台所用中性洗剤をつけたやわらかいスポンジで洗ってください。水分のあるものをいれたまま放置せず、洗った後は乾いた布などで丁寧に水分をふき取ってください。
紀州漆器の見学・体験ができる場所
紀州漆器伝統産業会館(うるわし館)
所在地 | 和歌山県海南市船尾222 |
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電話番号 | 073-482-0322 |
定休日 | 第2日曜日、8/14~16、12/28~1/4 |
営業時間 | 10:00~16:30 |
HP | http://www.chuokai-wakayama.or.jp/sikki-k/ |
備考 | 紀州漆器の即売コーナーや漆器資料室、木工室などがあり、歴史や作り方を学ぶことができます。【蒔絵体験】丸盆1,500円、小判盆2,000円、弁当箱2,500円 |
黒江ぬりもの館
所在地 | 和歌山県海南市黒江680 |
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電話番号 | 073-482-5321 |
定休日 | 火曜、水曜 |
営業時間 | 11:00~17:00 |
HP | https://kuroe.info/ |
備考 | 漆職人の家をギャラリーカフェにリフォームしています。根来塗り研ぎ出し体験、水中花ワークショップ、柿渋染め一閑張り体験などのワークショップを受けることができます。 |