鎌倉彫とは
鎌倉彫(かまくらぼり)は、神奈川県鎌倉市の周辺で生産される高級漆器です。昔は仏像や仏具が中心でしたが、現在は生活用品が中心となっており、盆や皿、手鏡などが作られています。
伝統的な技法で生産される鎌倉彫は、実用性だけでなく、芸術性も高いことが特徴。熟練の職人が施す彫刻と漆塗りは、多くの人を魅了しています。
鎌倉彫の歴史と仏具から生活用品への変化
鎌倉彫の歴史は、鎌倉時代まで遡ることになります。きっかけとなる出来事は、中国から高価な工芸品が入ってきたこと。禅宗(ぜんしゅう)とともに伝わった堆朱(ついしゅ)や堆黒(ついこく)は、塗り重ねられた漆と緻密な模様が特徴であり、日本製のものとは異なる優れた彫漆品(ちょうしつひん)として、多くの人気を集めます。
当時の鎌倉の仏師(ぶっし)たちは、中国の技術を熱心に研究し、仏具作りに取り入れていきました。その結果、堆朱や堆黒のように細かい彫刻を施し、漆を塗り重ねた製品が多数登場します。これが、鎌倉彫の起源です。
日本文化と中国の技術を融合させた木彫彩漆(もくちょうさいしつ)の仏具は、従来の製品にはなかった魅力を放ち、たちまち話題になります。それまでは華やかさや大胆さ、迫力などが重視されていましたが、繊細な作業で生み出される緻密な装飾も、高く評価されるようになりました。
鎌倉彫という名前が定着したのは、室町時代に入ってからです。製造技術がさらに発達した室町時代は、さまざま寺院に伝わる「大香合(だいこうごう)」、鎌倉国宝館の「獅子牡丹文硯台(ししぼたんもんけんだい)」など、優れた製品が次々に登場しました。
当時の公家の日記である「実隆公記(さねたかこうき)」には、そうした鎌倉の工芸品が「鎌倉物(かまくらもの)」という名前で記されています。この言葉が少しずつ変化し、鎌倉彫という呼び方が人々の間に広まっていきました。
江戸時代になると、鎌倉彫の茶道具の需要が増加。茶道が広まったことで、茶器や茶箱などを使う人が多くなり、鎌倉彫の美しい製品が注目されるようになりました。雅味(がみ)のある彫刻も人気となり、品のある新製品が多数登場。侘(わび)、寂(さび)、粋(いき)といった江戸文化を取り入れた製品も増えていきます。
また、日用品としての鎌倉彫も、江戸時代に流行した製品のひとつ。手軽に使える鎌倉彫が多く作られ、より人々の日常に溶け込んでいきました。美術や茶道具についてまとめた1694年の書物「万法(まんぽう)全書」にも鎌倉彫についての記載があり、世間に浸透していたことが伺えます。
明治時代になると、鎌倉彫の生産量は大幅に低下。1868年の神仏分離令により、仏教文化を破壊する廃仏毀釈(はいぶつきしゃく)の運動が起こったことで、仏師たちが仕事を失い、鎌倉彫の作り手が減っていきました。
そんな中、残った2人の仏師が活路を見出します。後藤齋宮(ごとう いつき)と三橋鎌山(みつはし けんざん)は、長く続いてきた仏像や仏具の生産を諦め、日用品の生産に一層力を入れるようになりました。1889年の横須賀線開通で、鎌倉が別荘地として栄え始めると、日用品やお土産としての鎌倉彫は人気が高まっていきます。
高度成長期以降は、大量に生産される工業製品の中で、鎌倉彫の魅力が再評価されました。温もりを感じられる手作りの製品が、より多くの人から愛されるようになったのです。1979年には、国の伝統工芸品に指定されています。
高度な彫刻と漆塗りがもたらす鎌倉彫の特徴
鎌倉彫の大きな特徴は、熟練の職人が施す美麗な彫刻。草花などの細かい模様をいかす丁寧な彫りによって、使いやすさだけでなく、鑑賞する楽しみもあわせもつ製品に仕上がっています。
彫りの代表的な技法は、地の部分にあえて彫り跡を残す「刀痕(とうこん)」です。鎌倉彫では、薄めに彫る「薄肉(うすにく)彫り」が一般的ですが、彫り跡を残すことで立体感を表現。彫り跡には職人の個性が出るため、一品ごとに違った味わいを楽しむことができます。
また、経年によって変化する漆の色も、魅力的な特徴のひとつ。漆を何層にも塗り重ねる手法により、長く使うほど色が落ち着き、艶が出てきます。塗りの工程は10以上にもなりますが、それぞれ薄く塗っていくため、細かい模様が消えることはありません。刀痕を残したまま均一に塗り重ねていく作業には、職人の高度な技術が必要です。
鎌倉彫の独特の味わいには、「乾口(ひくち)とり」という伝統的な手法も影響を与えています。乾口とりは、上塗り後、完全に乾く前にマコモ粉をまく手法です。マコモ粉をまいた状態でしっかり乾かし、丁寧に磨き上げていくと、より落ち着いた色を出すことができます。
鎌倉彫の現在とお手入れのコツ
現在の鎌倉彫は、盆や皿といった昔ながらの製品を大切にしつつ、新しい製品の開発にも積極的に取り組んでいます。ワイングラスや名刺入れ、スマートフォンスタンドなど、現代的な製品が数多く登場。日々試行錯誤を繰り返し、人々の生活に馴染むものを作り続けています。
鎌倉彫の盆や皿を長く使うには、常に適切な手入れを行うことが大切です。使用後は、金ダワシなどの硬いものを使わず、柔らかいスポンジで洗いましょう。優しく洗っていれば、細かい傷がつくことはありません。油汚れなどは、中性洗剤を使うと、きれいに落とすことができます。
また、洗ったあとは布で拭き、水気を取ることをおすすめします。布で拭いた方が漆の艶が増すので、ただ伏せて乾かすよりも、味わいを深めることができるでしょう。
鎌倉彫の見学・体験ができる場所
鎌倉彫会館
所在地 | 神奈川県鎌倉市小町2-15-13 |
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電話番号 | 0467-25-1500 |
定休日 | 夏季休暇、年末年始(カフェ 倶利 guri、鎌倉堀資料館は月曜定休) |
営業時間 | 9:30~17:00(カフェ&ショップ倶利のみ11:00~16:00) |
HP | http://kamakuraborikaikan.jp/ |
備考 | 鎌倉彫カフェ、鎌倉彫資料館、鎌倉彫教室 |
青樹庵
所在地 | 神奈川県鎌倉市笛田5-33-46 |
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電話番号 | 0467-67-7251 |
定休日 | 要問い合わせ |
営業時間 | 要問い合わせ |
HP | http://xn--0vqw88a2m3b.net/ |
備考 | 鎌倉彫教室、漆塗り教室 |