一位一刀彫とは
一位一刀彫(いちいいっとうぼり)とは、岐阜県高山市、飛騨市、下呂市で生産されている木彫りの工芸品です。一位(イチイ)という木材をノミだけで削り出しており、彩色は施さずに木目の美しさをそのまま活かしています。その伝統的な製法を長年守り続けてきたことにより、1975年に経済産業大臣より、伝統的工芸品の指定を受けています。
一位一刀彫の歴史と松田亮長
一位一刀彫の起源は、江戸時代末期に松田亮長(まつだりょうちょう)という根付師によって確立されました。根付(ねつけ)とは、巾着やたばこ入れ、印籠などを帯から下げて持ち歩く際、帯から落ちないように留めておくための留め具を指します。
亮長は、もとは製箸を生業としていましたが、日本各所にある彫刻師の名家を訪ねたり、神社仏閣にある彫刻を研究したりして、彫刻師としての技法も磨いていきました。
ある時、亮長は奈良を訪れた際、奈良一刀彫によって作られた人形を発見します。奈良一刀彫の人形は鮮やかな彩色が特徴ですが、彩色によって木目の美しさなどは覆い隠されてしまっているともいえました。
天然の木の美しさを活かした彫刻を作りたいと考えた亮長は、木目の美しさや彫りやすさ、艶などの条件が優れていたイチイの木を使い、研究を重ねました。
その結果、あえて彩色を施さないことで木材本来の美しさを活かした一位一刀彫を考案したのです。亮長は一位一刀彫による根付や彫刻を多数制作し、その技術は飛騨の彫刻師たちに受け継がれていきました。
イチイ本来の美しさを楽しめる一位一刀彫の特徴
一位一刀彫の特徴は、あえて彩色を施さないことによって活かされるイチイの木目の美しさ。一位一刀彫で使用する木材は、樹齢400年から500年を経た貴重なものです。
イチイは木目が細かく、成長の早さが季節によってあまり変わらないので、木目の硬さが均一で彫りやすい木として知られています。
また、木材の外側が白みがかった「白太」、内側が赤みがかった「赤太」という2種類の部分に分かれており、美しい色のコントラストを楽しむことができます。
たとえば、一位一刀彫の中でも人気のふくろうの彫刻では、ふくろうの羽毛の色が濃い部分を赤太で、胸毛など色が白い部分を白太で表現するなど、職人のセンスが光る作品も多く作られます。
製材したばかりの木材はオレンジ色に近い明るい色をしていますが、時間が経つにつれ、徐々に褐色を帯びた落ち着いた色になっていき、光沢も増します。木材の色の変化を楽しむことができるのも、イチイの魅力です。
そんな一位一刀彫ですが、これを制作するにはいくつかの工程が必要になります。まず、自然乾燥させたイチイから、木目の出方や白太、赤太の色合いを見極め、木材を選びます。
木材を選んだら、次は電動ノコギリなどで大まかな形に切っていく「木取り」という工程。その後、作品のイメージに合わせて輪郭を削り出す「荒取り」を行います。
丸ノミやツキノミなど、何種類ものノミを使い分け、だいたいの形を削り出す「荒彫り」、更に細かく彫っていく「中彫り」という工程が入ります。
彫り工程の最後は、細かく繊細な部分まで彫り上げる「仕上げ彫り」。一位一刀彫はノミの跡をそのまま活かす彫り方になるので、一つ一つの彫りが作品の雰囲気に大きく影響するのです。作品によっては1週間以上の時間を必要とすることもあるほど、慎重に行われる作業です。
彫り上げたら、最後に溶かした白ロウを塗り、乾いた布で磨いて完成です。白ロウは手垢や木の割れを防ぐために塗られますが、それと同時に、イチイの木の油気を引き出す役目もあります。油気が引き出されることによって、イチイの光沢をより鮮やかに見せることができるのです。
一位一刀彫の現代での使われ方とお手入れ方法
伝統ある一位一刀彫も、今日では、さまざまな種類の製品が作られるようになりました。一位一刀彫の開祖である松田亮長(まつだりょうちょう)が得意とした亀や、観音像などの置物、根付、茶道具などの昔ながらの雑貨は今でも人気です。
伝統的な意匠のものだけでなく、現代においては疫病退散のアマビエの像なども、人気が高まっています。また、時代に合わせて、食器、ループタイ、スマートフォン向けの小物、アクセサリーにも一位一刀彫は進出しています。
特に、白太と赤太のコントラストの面白さをうまく取り入れたアクセサリーは、その素朴さと色の美しさから、ファッションのワンポイントとして活用できます。
また、現代では男性作家だけでなく、女性作家も活躍していますので、作家に注目して作品を探してみるのも面白いです。
インターネット通販で購入することもできるので、ぜひ写真をじっくり眺めて、自分に合った一位一刀彫の作品を見つけてください。まずは値段がお手頃な、日用品からお求めいただくことをおすすめします。
そんな一位一刀彫ですが、取り扱いの方法を知っていれば、長い間その魅力を楽しむことができます。まず、一位一刀彫は表面にロウが塗ってありますので、濡れた手や布で触ることは避けてください。ときどき乾いた柔らかい布で拭けば、年月が経つにつれて光沢が増していきます。
また、長い間箱やガラスケースに入れたままにしていると、表面がくすむことがあります。そんな時は、ドライヤーで軽く温め、乾いた布で拭くと光沢を取り戻します。
一位一刀彫を使った食器は、冷温や熱にもある程度耐えられるようになっています。しかし、やはり木材ですので、直火や熱した油へは近づけないでください。食器として使った後は、中性洗剤を用いて、柔らかいスポンジで優しく洗いましょう。
一位一刀彫は、使えば使うほどに、色の深みと光沢が増していく工芸品です。ぜひ、大切に取り扱って、美しい色の変化を楽しんでください。
一位一刀彫の見学・体験ができる場所
一般財団法人 飛騨地域地場産業振興センター
所在地 | 岐阜県高山市天満町5丁目1番地25 |
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電話番号 | 0577-35-0370 |
定休日 | 12/28~1/3 |
営業時間 | 9:00~17:00 |
HP | https://www.hidajibasan.com/ |
備考 | 1階ギャラリーにて一位一刀彫の展示 |
津田彫刻
所在地 | 岐阜県高山市本町1丁目10 |
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電話番号 | 0577-32-2309 |
定休日 | 不定休 |
営業時間 | 8:30~18:30、9:00~18:00(11月~3月) |
HP | https://tsuda-choukoku.com/ |
備考 | 一位一刀彫の販売 |