秀衝塗とは
秀衡塗(ひでひらぬり)とは、漆と金の産地、岩手県平泉でつくられる漆器(うるしを塗った器物)のこと。秀衡塗の名称は、中尊寺金色堂周辺に昔から伝わる『秀衡椀』※から取ったもので、1501~1600年ごろにつくられたとされています。
秀衡塗は、トチやケヤキなどの天然木を乾燥させ加工した木地に、なんども漆 を塗り重ねたあと、金箔や絵付けをして完成。漆器は本来あまり模様をつけないものが多いなか、華やかな印象を与えるのが秀衡塗です。
そんな秀衡塗に欠かせない漆は、カンナをかけて木の幹に傷を付けヘラで掻き取る『漆掻き』で集めます。漆が採れる時期は6~10月に限られるほか、1本の木から150~200g程度でお椀にして約20個分しか採れません。わずかな量を何日かに分け根気よく集めます。
また、漆は縄文時代から使われてきた天然塗料であり、欠けたり割れたりした陶器の修繕で行う『金継ぎ』の接着剤としても使われます。
秀衡塗をはじめとする漆器は『JAPAN』と呼ばれ、47都道府県のうち半分以上の都府県に漆器の生産地があります。しかし今や国産漆は3%しかなく、97%が輸入に頼っています。その国産漆の3%のうち、70%が岩手県産です。
主な製品としては汁椀、茶托、皿類、盆類、屠蘇器、煮物椀などがあります。
※内側が朱塗りの大振りな三つ椀の入れ子椀。椀の上部に源氏雲、菱形、ほか草花の絵
栄華を極めた平泉文化の象徴『秀衡塗』の歴史
秀衡塗りの歴史には諸説ありますが、平安時代”みちのくの王者”と呼ばれた奥州藤原氏第三代当主・藤原秀衡(ふじわらのひでひら)が京より職人を呼び、平泉周辺で採れる豊富な漆と金を使い、漆器をつくるよう命令したのが起源とされています。
その後江戸時代後期からは、平泉町隣村や奥州市で漆器が盛んにつくられるように。『秀衡塗』の呼び名がついたのは明治以降からで、それまでは浄法寺塗(じょうほうじぬり)や南部塗(なんぶぬり)と呼ばれていました
また、もう一説では782年頃からこの地を治めていた安倍氏により、衣川増沢地区で仏具や武具などの漆製品の製造が行われていたとされています。
1871年には秋田より川面漆器職人が招かれて『増沢塗(ますざわぬり)』が成立。秀衡塗の技術は明治から大正にかけ一時的に衰退したのです。
しかし、その後1935年になって、民芸の父と呼ばれる柳宗悦(やなぎそうえつ)らによる、ー秀衡椀の調査をきっかけに、増沢塗職人の手によって秀衡塗が復興。
さらに1955年の衣川ダム建設の影響で全国でも異例の産地分裂が起こり、県南に広く分かれたものの、現在も大切につくり続けられています。そんな秀衡塗りは、1985年5月に国の伝統的工芸品に指定されました。
美しいけど派手過ぎない控えめな存在感が魅力|秀衡塗の特徴
一関で採れる漆と金を使ってつくられる秀衡塗の特徴は、平安時代ならではの源氏雲とひし型を組み合わせた『有職紋様(ゆうそくもんよう)』と呼ばれる柄が代表的です。さらに植物などの自然に関する絵柄も描かれます。
朱と黒と金を基調に、春秋草花紋(自然に関する絵柄)が描かれることの多い秀衡塗は、しっくり手になじむ優雅なフォルムと、豪華な金箔や鮮やかな絵柄から『特別な日しか使えない器』と考え、しまい込んでいる人も多いかもしれません。
しかし、秀衡塗はもっとも堅牢(けんろう)といわれる本堅地下地からできているのも大きな特徴。日常生活で毎日使える器として、長きにわたって愛されてきた漆器なのです。使い込まれて絵柄や金箔が剥がれた様も『味わい』ととらえて楽しみましょう。
また、漆塗りのなかでも秀衡塗の場合、ツヤや照りが控えめ仕上げられています。どこか素朴な魅力あふれる漆器ですので、ほかの器たちと一緒に使っても違和感なく食卓になじみます。お椀や器類だけでなくスプーンなど小さなものも、漆器ならではの色を取り入れて楽しむのもおすすめです。
秀衡塗を長く使うためにしっておきたい漆器の正しい取り扱い方
秀衡塗は陶磁器とは違い、木からつくられているため普段の手入れ方法にも注意が必要です。木でできているとはいえ、しっかり時間をかけてつくられた漆器は軽くてしかも丈夫。大切にすれば三世代にわたって使えるといわれています。
そのためには、秀衡塗を長く使い続けるためのポイントを覚えておけば安心です。
まずは使用後、洗うときには熱湯を避けてください。目の粗いスポンジ、タワシやクレンザーなどの磨き粉も、傷をつけて劣化させる原因となるので避けましょう。
長時間水に浸けっぱなしにしたり、直射日光の元に置きっぱなしにしたりすることも、変形・変色につながります。使ったらぬるま湯で早めに洗い(洗剤はOKですがスポンジは柔らかいものを使用)、柔らかい布で拭いてから、さらにしっかり乾燥した布で拭きとることが大切です。
保管場所は、極端に乾燥した場所ではなく、日が当たらず適度に湿気のある食器棚で良いでしょう。
直火やオーブン、電子レンジ、100℃を超えるような熱すぎる料理を入れることも避けてください。食べ物のニオイがついて気になるときは、直射日光の当たらない風通しの良い場所に1週間ほど置くか、2~3回ぬるま湯に湯通しすると解消します。
また、欠けてしまったときの金継ぎ修理や、内側の塗り直し修理などに対応しているところも多いので、困ったときは製造元に問い合わせてメンテナンスするのも良いでしょう。
秀衝塗の見学・体験ができる場所
有限会社 丸三漆器
所在地 | 岩手県一関市大東町摺沢字但馬崎10 |
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電話番号 | 0191-75-3153 |
定休日 | 不定休 |
営業時間 | 8:30~17:00 |
HP | https://hidehiranuri.jp/ |
備考 | 漆絵グラス絵付け体験:予約は7日前までにHPのフォームから1人3,000円(税別)~、グラス代材料込み |
うるし体験工房 KURAS (有限会社 扇知屋)
所在地 | 岩手県西磐井郡平泉町平泉字衣関1-7 |
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電話番号 | 0191-46-2306 |
定休日 | 水曜日、ー火曜日 |
営業時間 | 9:00~17:00 |
HP | https://ochiya.jp/kuras/ |
備考 |
箸・ストラップ・スプーンは各4,400円 コースター・銘々皿は各5,500円 |