郡内織物とは
郡内織物(ぐんないおりもの)は、山梨県で作られている織物です。主に郡内地域(富士吉田市、西桂町など)で生産されており、昔からさまざまな製品が作られてきました。
高級織物産地として有名な郡内地域の製品は、人々の日常生活をしっかりとサポート。繊細で高度な技法によって作られる婦人服やネクタイ生地、傘などは、多くの人から重宝されています。
郡内織物の歴史と徐福の旅
郡内織物の歴史は、紀元前219年まで遡ります。当時、奏(しん)の始皇帝は、不老不死になる方法を探していました。始皇帝は、家来の徐福(じょふく)という人物に、日本で不老不死の薬を見つけてくるよう命令。徐福は日本へ渡り、「蓬莱(ほうらい)の山」にあるという不老不死の薬を探し始めます。
蓬莱の山というのは、富士山のこと。徐福は、阿祖谷(現在の富士吉田市)で始皇帝の求める薬を必死に探しましたが、なかなか見つかりません。そのまま帰ることもできず、途方に暮れた徐福は、現地の女性と結婚し、日本に住むことを決意します。このときに伝えられた奏の織物技術が、郡内織物のルーツです。
徐福によって伝えられた織物の技法は、日本の職人たちの中で発展し、その後も生産が続いていきました。平安時代中期の書物には、山梨の織物についての記述があります。当時の法律を書き記した『延喜式(えんぎしき)』の中に、「甲斐の国は布を納めること」という内容の文章が書かれていたのです。甲斐の国は現在の山梨に当たる場所であり、平安時代も織物が盛んに生産されていたことがわかります。
江戸時代に入ると、郡内織物の需要はさらに増加。より多くの人が使うようになっていきます。需要が増えた理由は、贅沢品の使用を禁ずる奢侈(しゃし)禁止令により、裏地の装飾に力を入れる製品が多くなったこと。裏地であれば、禁止されている素材を使ったり、派手な色や柄を楽しんだりできるため、多くの江戸っ子が凝った裏地の製品を身につけていました。
そうした流れの中で注目を集めたのが、細かくきれいな柄を表現できる郡内織物です。産地が江戸に近いこともあり、郡内織物によるさまざまな装飾を楽しむ人が増えました。江戸時代の郡内織物の高度な技術は、多くの人から注目されており、「京都の織物は郡内のものには及ばない」と評判になるほど。郡内地域は、織物産地の中心的な存在になっていきました。
その後も活発に生産が続けられていた郡内織物ですが、昭和になると、第二次世界大戦の影響で生産が困難になります。戦争のために大量の金属が必要となり、多くの織機を差し出すよう命令されてしまったのです。
しかし、終戦後は再び自由に生産ができるようになり、郡内織物が飛ぶように売れ始めます。その勢いは凄まじく、「ガチャン」と1回織るだけで万単位の収入になるといわれるほどでした。「ガチャマン時代」と呼ばれるこの時期は、作り手の数が足りなくなり、織物業に従事する女性の争奪まで起こっています。化学繊維を用いた長持ちする製品が登場したのも、ガチャマン時代です。
昭和の終わり頃は、安い外国の製品が増えたことや、少ない織機で大量生産する技術が発達したことで、生産者が減少。それまでの産業構造が徐々に変化していきますが、伝統的な技術は大切に継承され続け、現在の郡内織物へとつながっています。
色の深みを追求した郡内織物の特徴
郡内織物の特徴は、伝統的な技法によって作り出される深みのある色彩です。絵画のような印象を与える郡内織物の装飾は、現在も多くの人を魅了し続けています。
優れた色彩や柄を生み出す秘密は、先に糸を染色してから織る「先染め」という手法。経糸(たていと)と緯糸(よこいと)の色の違いにより、美しい模様を作り上げていきます。
また、独特の光沢も魅力のひとつ。富士の雪解け水を用いた製品の光沢は、色が微妙に変化していく海のかげろうを連想させます。そのため、昔は「海気(かいき)」とも呼ばれていました。この呼び方は、産地の名前を取った「甲斐絹(かいき)」へと変化していきますが、美しい光沢は今も変わっていません。プリント生地とは異なる輝きがあり、多くの人から愛されています。
郡内織物の現在とお手入れのコツ
時代の流れに合わせて発展してきた郡内織物は、昔ながらの和装だけでなく、洋装にも対応。ネクタイやスーツの裏地としての郡内織物は、その美しさやデザイン性が高く評価されました。ほかにも多種多様な新商品が開発されており、より生活に寄り添った織物として、人々の日常に溶け込んでいます。
また、手織りの製品も人気。自分の好みに合わせて自由に織っていく手作りの郡内織物は、コースターやランチョンマット、ストールなどを作ることも可能です。幅広い年代から支持されており、子供たちが伝統的な産業に触れる貴重な機会としても注目されています。
郡内織物を長持ちさせるためには、日頃の手入れをしっかり行うようにしましょう。汚れが付着した場合は、中性洗剤を薄めたもので洗い落としてください。強い力で擦るのではなく、優しく手洗いをすることが大切です。
乾かす際には、日光の当たらない場所で陰干しにします。強い紫外線は生地を変色させるので、直射日光は避けてください。風通しの良い場所であれば、劣化を抑えながら乾かすことができます。保管する際も、なるべく日の当たらない場所を選びましょう。
郡内織物の見学・体験ができる場所
株式会社 槙田商店
所在地 | 山梨県南都留郡西桂町小沼1717 |
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電話番号 | 0555-25-3111 |
定休日 | 要問い合わせ |
営業時間 | 要問い合わせ |
HP | https://www.makita-1866.jp/ |
備考 | 服地や傘生地、傘の購入が可能。動画による工場見学あり。 |
有限会社 羽田忠織物
所在地 | 山梨県富士吉田市上暮地3-7-26 |
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電話番号 | 0555-22-4584 |
定休日 | 要問い合わせ |
営業時間 | 要問い合わせ |
HP | https://hadachuorimono.jp/ |
備考 | ネクタイの購入が可能。動画による工場見学あり。 |