福山琴とは
福山琴は、広島県福山市で作られている琴です。
原材料として使われているのは最高級の桐であり、1年もの年月をかけて自然の中で乾燥させてから加工していきます。乾燥の過程で表面は黒ずんでしまうのですが、丁寧にかんながけすると桐の美しい白色がお目見え。
そこへ少しずつノミで空洞を作り、琴の音質を決めていきます。装飾も細やかで華麗なため、楽器としての完成度はもちろん、芸術品としての価値も非常に高い琴となっています。
福山琴の歴史と城下町の流行
福山琴のはじまりは、江戸時代にまでさかのぼります。
1619年、徳川家康のいとこにあたる水野勝成が、現在の広島県福山市に城を築きました。その頃の城下町では歌や楽器をたしなむ人が多く、福山城下でも非常に賑わっていたといいます。
そして江戸時代が終わる頃、琴の名手・葛原勾当が弟子を多く集めたことをきっかけに、琴曲の人気が拡大。「春の海」で知られる琴曲家・宮城道雄の父・菅国治郎も福山の人であり、琴の人気上昇に一役買っていたことでしょう。
このような背景から、福山城下やその近辺における琴の需要が高まり、琴師による製造も盛んになっていったのでした。
福山琴の製造技術は現代に至るまで、親から子へ、子から孫へと受け継がれ続けています。1970年頃には生産数が最も多くなり、全国に福山琴の魅力が知れ渡ることになりました。その結果、1985年には楽器としてはじめて、伝統的工芸品の指定を受けることになったのです。
現在は最盛期の頃よりも生産数が落ちているものの、「新福山琴」という新しい琴を開発するなど、今なお精力的に技術革新を図っています。
目にも耳にも感動を与える福山琴の特徴
内部にまで施された細やかな装飾
福山琴の美しさは、琴の表面である甲(こう)や側面の磯(いそ)などに施された華麗な装飾から感じ取ることが可能です。漆で文様を描いた蒔絵は日本古来の装飾方法であり、金や銀などを蒔き付けることで一層美しさを増します。また、甲の裏側は綾杉彫りや簾目(すだれめ)彫りなどの模様が彫られ、装飾としてだけでなく音質にも影響します。特に「麻型彫り(通称:ダイヤモンド彫り)」と呼ばれる彫り方は、最高級品の福山琴だけに施される装飾模様。値段は相当張りますが、その分の価値を感じることができる、細やかで繊細な装飾となっています。
さらに、甲と裏板の合わせ方には「並甲」「クリ甲」の2パターンがあります。特に「クリ甲」は継ぎ目が見えない作り方になっているため、手触りも滑らかで、漂う高級感はほかの琴の追随を許しません。
このように、福山琴は多様な装飾品と多彩な技が施されるため、装飾だけでも多くの時間が必要。高級品ともなれば、一面を仕上げるのに1~2週間かかるともいわれています。
職人の腕と勘が生み出す音色
福山琴の装飾は目を見張るものばかりですが、楽器の本分である音色も非常に美しいです。この音色は、熟練した職人の腕と勘によって生み出されています。音色の質は原木選びからすでに始まっており、木の表面に近く木目が詰まった部位が最も品質が高くなります。また、原木の切り取り方によっても音色の質は変化し、甲に木目が美しくでているものほど、ムラのない綺麗な音を奏でてくれるのです。
さらに、琴の中央部にあたる甲を削る際、職人は「あの音を出すためには、この削りを」というように完成後の音色を想像しながら作業します。これは10年もの歳月をかけて、ようやく届く境地。センスも問われる部分のため、職人はひとつひとつの琴を作りながら、自らの感性と技術を磨いているのです。
福山琴の現代での使われ方とお手入れ方法
福山琴は見た目の美しさだけでなく、楽器としての完成度も非常に高くなっています。そのため、個人・団体問わず琴曲を演奏する際に使用され、多くの人を魅了し続けています。
また、小中学生の子供たちにも福山琴に慣れ親しんでもらおうと「新福山琴」という新しい琴を開発。従来の福山琴よりも小型で軽いため、小さい子供でも扱いやすくなっています。大きさは変われど音色の美しさはそのまま残されており、学校のクラブ活動やコンクールなどでも活躍中です。
演奏後のお手入れは、日本手ぬぐいなどの柔らかい布で空拭きし、専用のケースで保管します。通気性に乏しい袋に入れるとカビになることが多いため、皮革やビニール製などは避けてください。
また、直射日光やストーブなどの光熱は福山琴を極度に乾燥させ、甲の割れやねじれなどを発生させることも。福山琴を長く楽しむためにも、熱が直接当たらない場所を選んで保管しましょう。
長年の使用で音の調子が変わってきたと感じたときには、購入元に問い合わせ、糸などの締め具合を調整してもらうことをおすすめします。
福山琴の見学・体験ができる場所
福山邦楽器製造業協同組合
所在地 | 広島県福山市西町2-10-1 |
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電話番号 | 084-921-2349 |
定休日 | |
営業時間 | 直接お問い合わせください |
HP | https://www.fukuyama.or.jp/dentou/fukuyamakoto/ |
備考 | 購入のみ |
藤井琴製作所
所在地 | 広島県福山市御幸町下岩成735-1 |
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電話番号 | 084-955-5895 |
定休日 | 日曜日、第2第4土曜日、祝日 |
営業時間 | 8:00~17:00 |
HP | http://www.fujii-koto.com/ |
備考 | 見学、体験学習あり(事前の問い合わせが必要です) |