江戸鼈甲とは
江戸鼈甲(えどべっこう)とは、東京都文京区や台東区、墨田区などを中心に作られている加工品です。その起源は江戸時代にあり、今では大阪・長崎に並ぶ三大鼈甲産地のひとつとして数えられています。
原材料は、ウミガメの一種であるタイマイの甲羅。熱を加えることで形を変えることができるという、珍しい特性を持った天然素材です。現在に至るまで、さまざまな装飾品や日用品に加工され、多くの人に親しまれています。
江戸鼈甲の歴史と絶滅危惧種の存亡
江戸鼈甲のはじまりは、江戸時代にまでさかのぼります。江戸幕府が開かれたときには、すでに亀の甲羅を加工する技術がありました。江戸時代中期には、甲羅同士を融合させる「張り合わせ」の技法が伝えられ、より複雑な造形が可能に。 そうして発展を遂げてきた江戸鼈甲でしたが、1973年のワシントン条約によって事態は急変します。江戸鼈甲の原材料・タイマイが絶滅危惧種に認定されたことで、輸出入の制限が強化されたのです。これにより、タイマイの入手が困難となり、江戸鼈甲の希少性がさらに上がることになりました。 しかし、インドネシアやキューバなどでは人工増殖を開始しており、入手ルートの再獲得に期待が高まりつつあります。また、日本国内においても東京鼈甲組合連合会などを中心に、タイマイの産卵や飼育などの調査事業を進めているところです。 このように、江戸鼈甲は時代や世情の荒波にのまれながらも着々と技術が伝承され、1982年には東京都の伝統工芸品に認定されました。そして、2015年には国の伝統的工芸品に指定されることになったのです。年月の経過と共に愛着が増す江戸鼈甲の特徴
世界にひとつだけのデザイン
江戸鼈甲は黒色とアメ色が混ざった独特の模様が特徴的。その模様が生まれる背景には、タイマイの甲羅の構造と、職人の技が組み合わさることにあります。タイマイの甲羅は元からまだら模様ですが、色味によって模様の名称が異なります。黒色が最も多い並茨布(ばらふ)をはじめ、中茨布や上茨布、特上茨布とアメ色の割合が高くなるほど美しく、値段も高額に。
特に「白甲」と呼ばれる模様はアメ色だけで形成しており、非常に貴重な模様です。値段が張る分、比べものにならないほど美しく、漂う雰囲気が別格になっています。
また、タイマイの甲羅の中には水分を通す「コア」という管があり、人の手では再現できない複雑な構造をしています。実は、このコアこそが熱による加工を可能としているもの。
そこへ職人の技術が加わることで、世界にひとつとして同じものがないデザインの江戸鼈甲が仕上がっていきます。組み合わせる甲羅の部位の選定や張り合わせのときに甲羅を濡らす程度、熱した鉄板の温度や圧力のかけ具合などが仕上がりを左右するのです。
装飾として施される蒔絵や螺鈿(らでん)、真珠などとの組み合わせも職人のセンスによるところ。江戸鼈甲は、タイマイの甲羅の自然な美しさと特性を職人が存分に活かすことで、世界にひとつだけのデザインを生み出し続けているのです。
使用者に合わせて変化するフィット感
タイマイの熱に反応する特性は、眼鏡など身に着けるものにも影響します。人の体温によって、微妙に変形していくのです。そのため、眼鏡であれば通常負担がかかりやすい鼻や耳へも優しくフィットし、非常に使いやすく感じます。また、江戸鼈甲は全体的に軽く、肌触りが良いのも特徴のひとつ。アクセサリー類は着けていて心地良く、アレルギーの心配もありません。江戸鼈甲で作られた三味線のバチは「一度使い始めれば、代用がきかない」といわれるほど、使用者の手や奏法にフィットしていきます。
江戸鼈甲の愛好者が後を絶たないのは、年月が経つほど使用者に馴染んでくるところにある、といえます。
江戸鼈甲の現代での使われ方とお手入れ方法
江戸鼈甲はかんざしや帯留めといった和装品だけでなく、ブローチやネックレスなどの洋装品としても人気です。眼鏡フレームや三味線の撥(ばち)として使う人もいれば、置物として楽しむ人もいます。
日常的なお手入れには、柔らかい布(眼鏡のレンズクリーナーなど)を使用。汚れが出ていないときでも空拭きすることで、綺麗な状態を保ち続けることができます。また、アクセサリー類は使用後に汗や皮脂等が固着してしまわないよう、すぐに空拭きするようにしましょう。水に濡れてしまった場合も同様です。
ただし、硬い素材の布などで拭くと、江戸鼈甲の表面に細かいキズが入り、艶がなくなりかねません。劣化による傷や、失われた艶は磨き直しで修理可能ですが、できれば普段から柔らかい布で優しくお手入れするようにしましょう。
割れや折れが生じた場合には、新しいタイマイを継ぎ足しての修理が可能。材料を追加して修理する方法は時間がかかって費用も高い分、元の江戸鼈甲と遜色ない程度まで修理できます。強力な接着剤を用いた簡易的な修理は比較的安価なため、予算や希望に合わせて修理してもらうよう購入元へ相談してみてください。
江戸鼈甲の見学・体験ができる場所
葛飾区伝統産業館
所在地 | 東京都葛飾区立石7-3-16 |
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電話番号 | 03-5671-8288 |
定休日 | 毎週月曜日・火曜日 |
営業時間 | 11:00~18:00 |
HP | https://www.dentosangyokan.com/page/ |
備考 | 体験教室あり(日時、受講料は直接お問い合わせください) |
河端鼈甲店
所在地 | 東京都中央区京橋3-3-4 5F |
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電話番号 | 090-3965-1391 |
定休日 | 土日祝 |
営業時間 | 体験可能時間は13:00~15:00 |
HP | https://underbridge.base.ec/ |
備考 | 【体験】ストラップ&ペンダント作り 1,000円 |