江戸木版画とは
江戸木版画(えどもくはんが)とは、日本独自の多色摺り木版画による工芸品です。その伝統的な製法を長年守り続けてきたことにより、2007年に経済産業大臣より、伝統的工芸品の指定を受けています。
技術革新によって花開いた江戸木版画の歴史
木版印刷が日本に伝わったのは飛鳥時代で、中国から仏教や製紙技術とともに伝来したといわれています。現存する印刷物の中でも最古とされるのが、770年に法隆寺などに納められた「百万塔陀羅尼(ひゃくまんとうだらに)」という仏教経典です。
大量生産を目的とした結果、木版による印刷が多く行われるようになりました。その後、キリスト教の布教活動などによって、文字や単語の形に木を彫って、それを組み合わせて文章を刷る「活版印刷」が広く知られるようになりました。
こうした技術発展とともに、木版印刷はどんどん進化していったのです。やがて江戸時代になると、本を取り扱う「本屋」が誕生したり、読み書きを教える「寺子屋」が普及したりするにつれ、木版印刷の需要はますます高まってきました。
そうした中、モノクロの「墨摺絵」や、墨絵に絵の具で着色した「丹絵」など、手による彩色を施された絵が多く作られるようになりました。
彩色技術は更に発展し、色のついた部分を「色版」と呼ばれる木版によって摺る「紅摺絵」が生まれ、そこから複数の色板を使ってさまざまな色彩を生み出す「多色摺り」へと発展していったのです。
この技術発展を後押ししたのが、江戸の浮世絵師たちです。喜多川歌麿、東洲斎写楽、葛飾北斎、歌川広重などの絵師たちが、次々に新しいデザインの浮世絵木版画を生み出していきました。
更に、コストを抑えた大量生産を実現するため、表現方法をどんどんシンプルにしていくことで、浮世絵独特の構図や色彩表現が生まれていきました。
このように、江戸木版画の技術は、美しい絵画をいかに低コストで大量生産できるかを追求し続けた人々の手によって花開いていったのです。
繊細な色彩を持つ江戸木版画の特徴
江戸木版画の特徴は、彫りや摺りの高度な技術、大胆な構図や繊細な色彩にあります。多色摺りによる豊かな色彩は、多いものでは20回から30回もの摺りを重ねることで生まれているのです。
その色彩は、ゴッホやモネ、ドビュッシーなどの世界の芸術家にも多大な影響を与えています。そんな江戸木版画ですが、その制作には「絵師」、「彫師(ほりし)」、「摺師(すりし)」と呼ばれる3人の専門の職人が携わっています。
江戸木版画の制作は、まず絵師による版下絵(はんしたえ)の作成から。この段階では色は付けず、墨一色で紙に絵を描いていきます。
下絵の作成が終わったら、次は彫師がその絵を元に版木(はんぎ)を作っていく工程です。版木は輪郭線の版木、墨板、色版の3種類を作ります。
原画を裏返し、米から作った糊で板に貼り付け、原画の線が透けて見えるのを目印に、版木を彫っていきます。
版木に使われるのは、固くて木目の詰まった桜などの板です。最初に、輪郭線の両側に切れ込みを入れ、輪郭線を掘り出していく作業が入ります。
正確さが要求される作業のため、版木刀と呼ばれる小刀を使い、寸分違わず輪郭線を掘り出すのです。輪郭線が彫り終わったら、叩きノミや間透(あいすき)と呼ばれる小刀などを使い、余分な部分を削っていきます。
この時、木目の向きに注意しながら彫っていかないと、板が割れてしまうことも。全体を彫り終わったら、見当と呼ばれる印を彫り、紙を剥がします。この見当は、のちの摺り作業でも目印として使うものです。
この段階で試し摺りを行い、必要に応じて更に修正を加えていきます。
彫りの作業が終わったら、最後は摺師による摺りの作業です。
まずは、輪郭線の部分の版木を墨を使って摺っていきます。その後、色の数と同じだけの色版を使い、薄い色から順に色摺りを重ねていくのです。
薄い色から重ねていくのは、重なっている部分の色は板に残ってしまうので、色が混ざってしまうのを防ぐためです。あらかじめ絵師が指定した色を試し摺りして、問題がなければ本摺りに移っていきます。
絵の具がきちんとのるように、和紙を少し湿らせてから色を摺ります。先ほど付けた見当を見ながら、ズレが生じないように注意深く色を摺る、繊細な作業です。
色摺りをしていく際は、糊を混ぜて塗ることで、絵の具が均一に広がります。ぼかし、骨(こつ)、ベタなどの技法も交え、全ての色版を摺り終えたら、江戸木版画の完成です。
このように、江戸木版画作りは、絵師、彫師、摺師の3人が協力して一つの絵を作っていきます。細かい作業が分業化されることで、江戸木版画はその高い品質が失われることなく、今日までその技術が受け継がれているのです。
江戸木版画の現代での使われ方
現代において江戸木版画は、絵画として部屋に飾られる以外にも、そのデザイン性を生かしたさまざまな商品が作られています。
うちわやポストカード、手ぬぐいやポチ袋など、江戸木版画の図柄を取り入れた商品は数多く生まれています。
また、技術が発展した現代では、写真やイラスト、CGなどを取り込んだ、よりバリエーション豊かな江戸木版画が作成されるようになりました。
そんな江戸木版画ですが、後継者となる若手の職人が不足していることにより、技術継承が難しくなっているという問題も抱えています。
そうした状況を打破するために、江戸木版画の技術を保存・継承するために活動している公益財団法人アダチ伝統木版画技術保存財団では、彫師や摺師として活動したい若者を対象にしたインターンシップを開催するなど、技術継承に手を尽くしています。
このように、職人たちが伝統的な技術を後世に残そうと尽力することによって、江戸木版画は今日でも、私たちの前にその美しい姿を表しているのです。
江戸木版画の見学・体験ができる場所
株式会社 アダチ版画研究所
所在地 | 東京都新宿区下落合3-13-17 |
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電話番号 | 03-3951-2681 |
定休日 | 日曜日、月曜日、祝日 |
営業時間 | 火曜~金曜:10:00~18:00、土曜:10:00~17:00 |
HP | https://www.adachi-hanga.com/ |
備考 |
匠木版画工房ふれあい館・朝香伝統木版画教室
所在地 | 東京都新宿区富久町23-4 |
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電話番号 | 03-5379-5668 |
定休日 | 不定休 |
営業時間 | 8:00〜18:00 |
HP | http://takumihanga.com/ |
備考 | 【体験メニュー】木版画体験教室 3,300円 |