秩父銘仙とは
秩父銘仙(ちちぶめいせん)は、埼玉県秩父市を中心に作られている織物です。埼玉県では数多くの工芸品が作られていますが、県内で4番目に国の伝統的工芸品に指定されています。指定されたのは2013年で、埼玉県では過去に江戸木目込人形・春日部桐箪笥・岩槻人形などが指定を受けました。
糸染加工やほぐし加工を取り入れて制作しているのが特徴で、丈夫で軽くて着心地の良い着物として知られています。また、裏表のない平織を採用しているため、表面が色あせたときには裏面を使って仕立て直せるのも特徴です。
秩父銘仙の技術の中でも特に素晴らしいのが「ほぐし捺染(なっせん)」で、秩父地域出身の坂本宗太郎氏が1908年に特許を取得しています。ほぐし捺染はほぐし織りとも呼ばれ、表と裏が同じように染色されるのが特徴的です。また、角度によって見え方が異なるのも、ほぐし捺染の魅力のひとつといえるでしょう。
古くから受け継がれてきた秩父銘仙ですが、現在でも多くの作品が生み出されています。
養蚕家が多かったことで発展した秩父銘仙の歴史
大胆で鮮やかなデザインの秩父銘仙の起源は、崇神天皇の御代にまでさかのぼるといわれています。もともと盆地を囲むように山地が存在する秩父地方は、稲の栽培に不向きなために養蚕家を営む者が多くいました。規格外の繭から「太織」といわれる普段着を作っていて、やがて「鬼秩父」と呼ばれ親しまれるようになったのが始まりです。
その丈夫な絹織りは庶民の生活に欠かすことのできない織物となり、全国的に名を知られるようになりました。「銘仙」の語源については、いくつもの説があるとされています。
【銘仙の語源について】
古くは銘仙ではなく、目専・目千・名撰などと書いていました。同様に「秩父銘仙」も銘仙という言葉の定着以前は別の呼び方をしていたそうです。秩父銘仙と呼ばれるようになったのは意外と新しい情報で、長く受け継がれてきた歴史から見ると最近となります。
由来については諸説あるため、ここでは一例を紹介します。1887年頃、太織を「めいせん」の名で販売し始め、1897年頃に「優良品を選んだ」という意味で「銘撰」の字が当てられました。その後、「銘仙」と表記するようになったといわれています。
【ほぐし捺染の特許取得による発展】
1908年の「ほぐし捺染」技法の発明とその特許の取得によって、秩父銘仙は隆盛を迎えました。さらに、「太織」は「秩父銘仙」と呼ばれるようになり、引き継がれた伝統と改良された技術によって発展していきます。
その後は明治中期から昭和初期にかけておしゃれ着として広く普及し、最盛期を迎えます。1908年に坂本宗太郎氏により特許取得された「解し捺染(ほぐしなつせん)」の技法開発後は、大胆でデザイン性のある柄が全国的に人気になりました。
秩父銘仙は平織りで裏表がないために何度でも仕立て直しができ、最後はオシメや雑巾にまで使い回しができる織物として現在でも幅広く愛されています。
秩父銘仙は表裏がないのが特徴
秩父銘仙の大きな特徴は糸に型染めをするため、裏表がないように染色できることです。そうして作られる平織りの織物は表が色あせてしまっても、裏を使って仕立て直しができるという大きなメリットがあります。
仕立て直しが利き、長い間着られることから多くの人に広まりました。
【普段着としても重宝される】
秩父銘仙は仕立て直して長く着られるため、普段着として非常に重宝されていました。また、重宝されていた理由はほかにもあります。糸は生糸・玉糸・紬糸だけでなく、くず繭や生糸のくずを原料として作られた紡績絹糸などを使っています。そのため値段が比較的安く、購入しやすかったのも重宝された理由のひとつです。
【ほぐし捺染による美しい光沢】
また、特許を取得した技法である「ほぐし捺染」は、機械で織物を織り上げる際に仮織りした段階で染色し、緯糸を手でほぐしながら織っていく技法です。型染めされた経糸と緯糸は色が違うため、見る角度によって独特の光沢が生まれます。この玉虫色の光沢こそ、秩父銘仙のもうひとつの特徴です。
現代での使われ方とお手入れ方法
秩父銘仙は、古くから庶民に親しまれてきた華やかで丈夫な普段着です。浴衣よりは少し上のイメージなので、キレイめな和装でお出かけをしたい方にもピッタリです。
あくまでもカジュアルな着物なので、結婚式などといったフォーマルな場所には不向きとなります。普段着としてはもちろん、おしゃれ着としてもさまざまなシーンで活躍してくれるでしょう。
ほかにも、秩父銘仙の反物を使ったポーチや名刺入れなども作られており、身近な小物として使いやすくおすすめです。
丈夫で長持ちするイメージの秩父銘仙ですが、あくまで絹織物なのでお手入れは必要です。絹は湿気を引きつけ、押しつけて擦る力には弱い性質があります。そのため定期的に風通しの良い場所に置いたり、何かに擦ったりしないように気を付けてください。
また、汚れや染みを放置してしまうと、カビや黄変の原因になります。特に着物の衿などは、ファンデーションが付着しやすいので注意が必要です。
洗いたい場合は、絹織物は水に濡れると縮む性質があるため、ドライクリーニングを行う必要があります。自宅ではなかなか難しいため、クリーニング店や着物店を頼りましょう。業者の中には丸洗いだけでなく、染み抜きや工芸修正なども引き受けてくれるところもあります。
秩父銘仙の見学・体験ができる場所
ちちぶ銘仙館
所在地 | 埼玉県秩父市熊木町28-1 |
---|---|
電話番号 | 0494-21-2112 |
定休日 | 年末年始 |
営業時間 | 9:00〜16:00 |
HP | http://www.meisenkan.com/ |
備考 | 館内見学、実演、体験 |
レンタル銘仙イロハトリ
所在地 | 埼玉県秩父市本町3-1 秩父ふるさと館1階 |
---|---|
電話番号 | 050-7109-1331 |
定休日 | 不定休 |
営業時間 | 10:00~17:00(要予約) |
HP | https://irohatori.com/ |
備考 | 着物レンタル、着用・型染体験など |