播州毛鉤とは
播州毛鉤(ばんしゅうけばり)とは、兵庫県西脇市で作られている疑似鉤(ぎじばり)。主に鮎釣り(通称:ドブ釣り)に使われます。
しかし、播州毛鉤は単なる疑似鉤にとどまるものではなく、その美しく細やかな装飾は日本人の美的感覚をくすぐります。鉤の長さは1センチにも満たないにも関わらず、複数の装飾が丁寧に巻き上げられ、繊細な職人技は見る人を魅了してやみません。
まさに、100年以上の歴史が積み上げた知識と技術がギュッと詰まった、類を見ない疑似鉤です。
播州毛鉤の歴史~1人の村長が苦心した10年間~
播州毛鉤の始まりは、江戸時代末期にまでさかのぼります。
現・兵庫県加東市の村長であった小野寺彦兵衛は、土佐釣針の技術を知りたいと思い、土佐国(現在の高知県)へ1人向かいました。土佐国では釣針職人の下働きとなり、日夜を問わず誠実に仕えた結果、釣針の技術を教えてもらったのです。故郷を離れてから約10年が経過し、彦兵衛の初心はようやく報われたのでした。
その後、故郷の下久米村に帰った彦兵衛は、教わった技法を元に釣針の製造を開始します。ここで製造された釣針が、後に「播州毛鉤」と呼ばれる釣針です。彦兵衛は弟子だけでなく、同業者にも技法を伝授し、播州毛鉤は中国地方を中心に広がり続けました。
時代が変わるにつれて発展した技術により、播州毛鉤は改良に改良が重ねられ、見た目の美しさと実用性を兼ね備えた高品質の釣針へと進化。国内のさまざまな博覧会で受賞者を出すほど、疑似鉤として大きく成長していったのです。
実用性と芸術性を兼ね備えた播州毛鉤の特徴
空中と水中とで変わる表情
播州毛鉤は、さまざまな種類の羽根を使って虫の羽根や体、触覚などを表現。虫の脚を忠実に再現するために、羽根を巻く角度やテグスの締め具合を調整することも多いです。そうやって完成した播州毛鉤は繊細で美しく、伝統的工芸品の名に相応しい見た目をしています。しかし、播州毛鉤の本質は疑似鉤であり、釣りの成果を上げることも忘れてはなりません。そこで、職人は空中でかざしたときの見た目だけに囚われず「水中ではどんな姿になるのか」を想像して製造します。
例えば、播州毛鉤のうち「茶熊」や「清水」と呼ばれる鉤は、どちらも黒っぽい胴体が特徴的です。頭や触覚の色・形も同じように見え、違うとすれば胴体の中央部に鮮やかなすじが入っているか否かという程度。それにもかかわらず、水中に入ると2つの鉤の間には違いが出てきます。
胴体の羽毛立ちや触覚のなびき方、頭部で反射する光の強さ、水流や釣り糸のコントロールが影響して生み出される動きなど、それぞれが独特の反応を見せ、本物の虫であるかのように魚を錯覚させるのです。
このように、播州毛鉤の特徴は、空中と水中とで見せる表情が異なることにあります。そして、表情が異なることを見越して製造する職人の、想像力や技術力の高さを知ることができる特徴ともいえるでしょう。
釣り場の環境に適応できる種類の豊富さ
播州毛鉤は熟練の職人であっても、製造には1本10~20分かかるといわれています。1日で計算すると、50本前後作ることも。量販用として作ることが多いですが、時には釣り人のオーダーに合わせて作る場合もあります。直接オーダーが入るのは、季節や天候、釣り場の水質を考慮して作られる播州毛鉤ならではといえるでしょう。およそ500種類といわれる豊富な品種から、釣り人のオーダーに最も適合するものを選び取り、製造していきます。
流れが澄んでいる場所で釣る場合は「黒髪」といった暗い色の鉤を、深い釣り場であれば「暗烏(くらがらす)」といった派手な鉤を選択。魚が食いつくよう、釣果(ちょうか)が上がるよう、職人たちは日々魚と釣り人を考えながら播州毛鉤を作り続けています。
播州毛鉤の現代での使われ方
播州毛鉤は発祥から100年以上経過した今でも、疑似鉤として使われることが多く、特に鮎釣りの際に大活躍します。特に「赤熊中金・中銀」と呼ばれる播州毛鉤は、日没後にも鮎釣りができることから、人気の高い品種です。
2019年には年号が変わったことを祝して、緑色の帯が目を引く播州毛鉤「令和」を発表。伝統を守りつつも、新しいデザインへ挑戦する職人が増え、今なおさまざまな種類の播州毛鉤が増えてきています。
また、鮮やかな色合いや細やかな装飾などから、自宅のディスプレイ用として購入する方も少なくありません。中にはストラップやイヤリングなどのアクセサリーとして、身近に置いて楽しむ方もいます。繊細な装飾を長く楽しみたい場合は、触覚や胴体の型崩れが起きないように透明なチューブに保管すると安心です。
播州毛鉤の見学・体験ができる場所
西脇市郷土資料館
所在地 | 兵庫県西脇市西脇790-14 |
---|---|
電話番号 | 0795-23-5992 |
定休日 | 月曜日(祝日の場合は翌日)、毎月末(土曜日・日曜日、特別展開期中は会館)、年末年始(12/29~1/3) |
営業時間 | 10:00~18:00 |
HP | https://www.city.nishiwaki.lg.jp/kakukanogoannai/kyouikuiinkai/kyoudoshiryoukan/shiryoukan.html |
備考 | 見学無料 |
小山毛鈎製作所
所在地 | 兵庫県西脇市浦江517-50 |
---|---|
電話番号 | 0795-22-4228 |
定休日 | |
営業時間 | 9:00~20:00(電話受付) |
HP | http://www.fujikebari.sakura.ne.jp/ |
備考 | 販売のみ |